慕容隆2 巨星死後の動揺

慕容垂ぼようすい死後、慕容隆ぼようりゅうには

尚書右僕射の官位が与えられた。

髙唐こうとうに進軍、平規へいきを討つ。


拓跋珪たくばつけい常山じょうざんに攻め寄せてくると、

慕容隆は常山城の南城郭を守備。

兵らとともに力戦し、拓跋珪を退けた。


が、拓跋珪。

そのまま中山ちゅうざんを攻撃、包囲する。

これまでにも語られた通り、

城内で起こる迎撃論は慕容麟ぼようりんにより

封殺されてしまった。

慕容隆は何人もの同志とともに

何度も何度も迎撃論を説いたが、

結局慕容宝ぼようほうは首を縦に振らない。


失意の慕容隆のもとには

多くの将士が詰めかけ、

なおも討って出ましょう、という。


慕容隆、兵らに号令をかけ、言う。


「陛下の威光が拓跋を退けるに足りず、

 この燕国内を荒らして回させている。

 陛下が被られた恥は

 我らが恥も同然である。

 このような中、義を全うするに

 命を顧みてなどおれようか。


 我らの武にて敵手を打ち破れば、

 天の幸いは再び強固となろう。


 仮に打ち破ること能わずとも、

 我らが忠節は同胞を奮わせよう。

 そなたらのうち、誰かが

 北土に到着できたら、我が思いを

 母に伝えてほしいのだ。


 さぁ、鎧をまといて馬に乗り、

 出撃の合図を待とうではないか!」


が、慕容麟はつれない。

却下だ却下と、厳命してくる。


慕容隆は号泣、兵らを撤収させた。

同胞のために死ぬことすら許されんのか! 



一方の慕容宝は、中山を捨てて

和龍わりゅうに落ち延びようと画策する。

この話を聞いた慕容隆、

信頼する占い師の髙撫こうぶに吉凶を尋ねる。

髙撫は、こっそりと慕容隆に言う。


「殿下が北に赴かれても、

 和龍にたどり着けは致しますまい。

 すなわち、だん皇太后に見えることも

 叶いますまい。


 むしろ、陛下のみ和龍に赴いて頂き、

 殿下がこの地に留まられれば、

 大功を挙げること叶いましょう」


慕容隆は首を振る。


「お國に大難があり、

 陛下が流亡を強いられねばならず、

 しかも老い先短い母上が

 北地に待っておられるのだ。


 ならば北に向かうことで

 命を落とすことになろうとて、

 どうして恨もうか!


 そなたはどうして、

 斯様な妄言をなしたのか!」




寶嗣偽位,以隆領尚書右僕射,率兵討克平視于髙唐。魏太祖攻常山,隆拒守南郭,帥眾力戰,魏乃退。及圍中山,城中將士皆思出戰,每為趙王麟所抑,隆成列而罷者前後數四,寶終不許。諸將固請擊之,隆退而勒兵,召參佐謂之曰:皇威不振,寇賊內侮,臣子同恥,義不顧生。今幸而破賊,吉還固善,若其不幸,亦使吾志節獲伸。卿等有北見吾母者,為吾道此情也。被甲上馬,詣門俟命。麟復固止,隆涕泣而還。寶欲走保和龍。遼東髙撫善卜筮,素為隆所信厚,私謂隆曰:殿下北行,終不能達,太妃亦不可得見。若使主上獨往,殿下潛留于此,必有大功。隆曰:國有大難,主上蒙塵,且老母在北,吾得北首而死,猶無所恨,卿是何言也!


寶の偽位を嗣げるに、隆を以て尚書右僕射を領せしめ、兵を率い平視を髙唐に討克せしむ。魏の太祖の常山を攻むに、隆は南郭を拒守し、帥眾は力戰せば、魏は乃ち退る。中山を圍めるに及び、城中の將士は皆な出で戰わんと思うも、每に趙王の麟に抑わる所と為り、隆は列を成し罷る者の前後に四を數えど、寶は終に許さず。諸將は固く之を擊つべく請い、隆は退りて兵を勒し、參佐を召じ之に謂いて曰く:「皇威振わず、寇賊は內侮し、臣子は恥を同じくし、義は生を顧みず。今、幸いにして賊を破り、吉にして還ざば固より善し、若し其の幸いならざれば、亦た吾をして節の獲伸を志さん。卿らは北に吾が母なるを見たる有らん、吾が為に此の情を道うべし。甲を被し馬に上り、門を詣で命を俟たん」と。麟の復た固く止むるに、隆は涕泣し還ず。寶は走りて和龍を保たんと欲す。遼東の髙撫は卜筮に善く、素より隆に信厚かる所為るに、私に隆に謂いて曰く:「殿下は北に行けど、終に達す能わざらん。太妃にも亦た見ゆる得べからざらん。若し主上をして獨り往かしめ、殿下の潛かに此に留むるに、必ずや大功有らん」と。隆は曰く:「國に大難有り、主上の蒙塵し、且つ老母の北に在らば、吾れ北首し死せるを得たれど、猶お恨む所無し、卿は是れ何ぞを言いたりしや!」と。


(十六国50-10_衰亡)




農と隆のコンビはめっちゃ素直で良い子ちゃんですわね……これだけいい子が育つんだったら、垂パパの教育方針もなかなか素晴らしいものだったのかもしれません。とはいえ、前燕ぜんえん宗室としてやや孤立気味になってたろうから、そういう意味で団結力があったのかもしれんよなぁ。


何にせよ農と隆に対して、屠喬孫ときょうそんさんは随分同情的だよなぁと思うのです。人情味あふれる行いといえば行いなんですが、「小説は小説でやってろ」とも思わずにはおれません☆

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