慕容垂32 魏:参合陂 上

395 年、慕容垂ぼようすい慕容宝ぼようほうに大軍を与え、

に攻め上らせてくる。


このとき、拓跋珪たくばつけい河南宮かなんぐうにいた。

おそらくはオルドス地方にある離宮だろう。

そこから東流する黄河こうがの南岸に出、

告津こくしんにやぐらを組み、全軍を鼓舞。

その陣容は東西400kmあまりに及ぶ。


また拓跋虔たくばつけん五万騎はその下流、

流れを南に変えた黄河の東側に、

やはり東西 250kmに散らばり、

拓跋珪に攻めかからんとする

慕容宝軍の左翼を牽制する。


そこにつながる形で、

黄河の北側に連なるのが拓跋儀たくばつぎ十万。

更に拓跋遵たくばつじゅん七万が、

中山ちゅうざんに戻るための道を塞ぐ。


これら兵力を動員して、

慕容宝軍の斥候を捕獲にかかる。

それっぽい人物をことごとく捕らえ、

脱出もできないようにした。


慕容宝は思う。

このまま陸路を行くのは危うい。

なので船を獲得し、南に渡ろうとする。

が、渡河の最中に暴風が起こり、

多くの船が魏軍の待ち受ける南岸に

押し流され、乗っていたものは

ことごとく捕らえられた。

ただ、ここで捕まえられた三百人余りには

衣服を支給の上、返還された。



慕容宝が五原ごげんという地に出た頃、

慕容垂は病のため、思うように進軍できずにいた。


そこで拓跋珪は兵を進め、

慕容宝と慕容垂の間を遮断。

連絡が取れないようにした。


その上で、虚報を握らせるのだ。


「慕容垂はすでに死んだぞ!

 いつまでこのような場に

 留まっているつもりだ!」


この虚報の効果はてきめんであり、

父親の容態を理解していたであろう

慕容宝ら兄弟はあっさりと信じ込み、

たちまち恐慌に陥る。

その動揺は当然兵らの間にも広がり、

あることないことの噂が飛び交い、

謀反を起こそうとするものまで現れた。


さて、先に書いたとおり、

慕容宝が幽州ゆうしゅうに出たときに車軸が折れた。

これを理由に靳安きんあんが出征を諌めている。

結局慕容宝は却下したわけだが、

ここではその続報がある。


混乱する慕容宝軍の中にあり、

靳安は改めて、慕容宝にいう。


「今、天は人事を捻じ曲げました。

 理のなき出征に対する懲罰の証が

 すでに目の当たりとなっております。


 速やかに引き上げるべきです。

 まだ間に合いましょう」


ただし、この言葉に対し、

慕容宝は怯えるばかりであった。

なので靳安、下がったあと、こう漏らす。


「もはや客地にて滅ぶのみ。

 死骸は草原に放置され、

 鳥や虫についばまれよう。

 誰が我が家に戻れようか」




十年,垂遣其太子寶來寇。時太祖幸河南宮,乃進師臨河,築臺告津,奮揚威武,連旌沿河,東西千有餘里。是時,陳留公虔五萬騎在河東,要山截谷六百餘里,以絕其左;太原公儀十萬騎在河北,以承其後;略陽公遵七萬騎塞其南路。太祖遣捕寶中山行人,一二盡擒,馬步無脫。寶乃引船列兵,亦欲南渡。中流,大風卒起,漂寶船數十艘泊南岸,擒其將士三百餘人。太祖悉賜衣服遣還。始寶之來,垂已有疾,自到五原,太祖斷其行路,父子問絕。太祖乃詭其行人之辭,令臨河告之曰:「汝父已死,何不遽還!」兄弟聞之,憂怖,以為信然。於是士卒駭動,往往間言,皆欲為變。初,寶至幽州,其所乘車軸,無故自折,占工靳安以為大凶,固勸令還,寶怒不從。至是問安,安對曰:「今天變人事,咎徵已集,速去可免。」寶逾大恐。安退而告人曰:「今皆將死於他鄉,尸骸委於草野,為烏鳥螻蟻所食,不復見家矣。」


十年、垂は其の太子の寶を遣りて來寇せしむ。時に太祖は河南宮に幸いせば、乃ち師を進め河に臨み、告津に臺を築き、威武を奮揚し、旌を連ね河に沿うこと東西千有餘里なり。是の時、陳留公の虔が五萬騎は河東に在り、山を要え谷を截つこと六百餘里、以て其の左を絕つ。太原公の儀が十萬騎は河が北に在り、以て其の後を承く。略陽公の遵が七萬騎は其の南路を塞ぐ。太祖は遣りて寶が中山の行人を捕え、一二を盡く擒まえ、馬步に脫す無し。寶は乃ち船を引き兵を列ね、亦た南渡を欲す。流れに中りて、大風の卒かに起つれば、寶が船の數十艘は漂じ南岸に泊り、其の將士三百餘人が擒わる。太祖は悉く衣服を賜いて遣りて還ぜしむ。始め寶の來たるに、垂は已に疾有りて、自ら五原に到らば、太祖は其の行路を斷ち、父子が問は絕たる。太祖は乃ち其の行人の辭を詭らしめ、令し河に臨みて之を告がしめて曰く:「汝が父は已に死せり、何ぞ還ぜるを遽らざらんか!」と。兄弟は之を聞きて憂怖し、以て信然と為す。是に於いて士卒は駭動し、往往に間言し、皆な變を為さんと欲す。初、寶の幽州に至れるに、其の乘れる所の車軸は故無くして自ら折らる。占工の靳安は以て大凶と為し、固く令し還ぜしめんと勸めど、寶は怒りて從わず。是に至りて安に問わば、安は對えて曰く:「今、天は人事を變じ、咎徵は已に集まらば、速やかに去らば免ずべからん」と。寶は逾いよ大いに恐る。安は退りて人に告げて曰く:「今、皆な將に他鄉にて死なんとす。尸骸は草野に委ねられ、烏鳥螻蟻に食わる所と為り、復た家を見ざらん」と。


(魏書95-2_術解)




う、うん……ぅう? なんか慕容宝の黄河進出時の状況、よくわからんくない? どうも機動力 VS 機動力の戦い展開の仕方はよくわからん。そんなあっさり退路塞がれてんのになんで慕容宝は撤退できてんの? これは囲師は周せずを拓跋が指示してたの? けどそれって徹底できんの?


後半はまぁ、晋書の内容を補完してくれる感じで素敵です。ただ前半、前半がマジで謎。黄河にでてきた段階でだいぶボコせる布陣になってたと思うんですが、……うーん、これ拓跋の方、ゼロ一個多いんじゃないかなぁ。合計二十二万騎+拓跋珪本陣とか、ありえねーっしょ。


だめだ、詳細を求めて飛んだら却って混乱が深まるだけでした。とけつ。

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