仏陀耶舍4 神行法    

沙勒カシュガルには十年余りいたが、

やがて東の龜茲クチャに移動。

そこで大いに仏法を広める。


姑臧にいたクマーラジーヴァは、

ブッダヤシャスを招きたい旨、

手紙をしたためる。


それを読んだブッダヤシャス、

すぐさま荷物を取りまとめ、

出立しようとした。


が、それを龜茲の人たちが引き止める。

結局押し切られ、また一年ばかりを

龜茲で過ごすこととなった。


やがてブッダヤシャス、

ついにしびれを切らす。

弟子に言う。


「ジーヴァのもとに赴くぞ!

 密かに準備をし、夜陰に乗じ出立する!

 バレないようにしろよ!」


「そ、そんな! すぐに追っ手がかかり、

 翌朝には捕まってしまいます!

 そうすれば、結局この地に

 引き戻されてしまいます!」


ならば、とブッダヤシャス、

タライに水を張り、そこに謎の薬を投じ、

謎の呪文を唱え、弟子に足を洗わせた。


そして、その夜に出立。

朝にもなればすでに百キロ近くの旅程を

踏破していた。


「弟子よ、何を感じる?」

「か、風がごうごうと言い、

 な、涙が止まりませぬ」


む、そろそろ謎の薬の効果が切れるのだな。

ブッダヤシャス、改めて謎水を作り、

弟子に足を洗わせ、一休みする。


明け方になり、龜茲の人々が失踪に気づき、

追跡をなそうとしたが、

その差はすでに百キロメートル以上。

なので、早々に追跡は打ち切られた。




停十餘年,乃東適龜茲,法化甚盛。時什在姑臧遣信要之,裹糧欲去,國人留之,復停歲許。後語弟子云:「吾欲尋羅什,可密裝夜發,勿使人知。」弟子曰:「恐明日追至,不免復還耳。」耶舍乃取清水一鉢,以藥投中,呪數十言,與弟子洗足,即便夜發。比至旦,行數百里,問弟子曰:「何所覺耶?」答曰:「唯聞疾風之響,眼中淚出耳。」耶舍又與呪水洗足,住息。明旦,國人追之,已差數百里,不及。


停むること十餘年、乃ち東の龜茲に適し、法化せること甚だ盛んなり。時に什は姑臧に在りて信を遣りて之を要えんとす。糧を裹し去らんと欲せど、國人の之を留むらば、復た歲許り停む。後に弟子に語りて云えらく:「吾れ羅什を尋ねんと欲す。密かに裝いて夜に發すべくせん。人をして知らしむこと勿れ」と。弟子は曰く:「明日には追の至らんことを恐る、復た還ぜるを免れざらんのみ」と。耶舍は乃ち清水一鉢を取りて以て藥を中に投じ、呪を數十言し、弟子に與え足を洗わしめ、即便に夜に發す。旦に至れるに比し、行は數百里なれば、弟子に問うて曰く:「何ぞ覺れる所や?」と。答えて曰く:「唯だ疾風の響を聞き、眼中に淚出づるのみ」と。耶舍は又た呪水を與え足を洗い、住息す。明くる旦、國人は之を追えど、已に數百里の差たれば、及ばず。


(高僧伝2-18_術解)




突然紛れ込む志怪小説。しかし御仏のなす奇跡だからね。仕方ないね。


それにしても、ここに呪言って言葉が持ち込まれているあたり、中華圏ではやっぱり仏教のある一側面については否定的だったんでしょうか。まぁ、すでにクマーラジーヴァのところで音楽的側面が大幅にオミットされてたってのは見たから、そういう部分は「理解し難い、謎のアレ」として排除されざるを得ないんでしょう。


そして、音楽的側面を保存したままで探求すれば、きっと色んな所で接続したりもするんでしょう。そのへんも見てみたいところではあるけど、ちょっと手に余りそうかな。


将来そのへんで遊びたくなったら、もろもろやってみたいところです。

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