羅什5  天候を読む   

呂光りょこう、配下に命じて、クマーラジーヴァを

牛やら暴れ馬やらに騎乗させる。

狙いは彼が落ちたところを笑う、である。


クマーラジーヴァ、内心はさておき、

表向きは平静そのものといった様子で、

これら案件をこなす。

その様子を見た呂光が、

恥じ入ってしまうほどの態度であった。


西方遠征からの帰途につく呂光軍。

途中、山の麓に宿営地を展開し、

配下らを休息させようとした。


するとクマーラジーヴァが言う。


「この地は避けられたほうが良い。

 遠からず、軍に大混乱が起きましょう。

 彼らを峰の上に移すべきです」


この提言を呂光が蹴った、その夜。

にわかに洪水に見舞われ、

その水深も数メートルに及べば、

呂光軍数千が、まるごとかっさらわれた。

この事態を受けて、呂光は初めて


「えっ、こいつヤバない……?」

と思ったそーである。


そのクマーラジーヴァが、改めて言う。


「災害は、これにとどまりますまい。

 速やかに引き払われるべきです。

 天運を紐解けば、やはり

 早々の撤収を告げております。


 その先の道中にて、

 とどまるにふさわしい地にも

 巡りあえましょう」


今度は呂光、その提言に従う。


彼らが涼州りょうしゅうにまで戻ってきたところで、

姚萇ようちょうによる苻堅ふけん殺害の報が届けられる。

呂光は弔意を示すため

軍に白い衣を纏わせた。


そして、城南びょうなんという地で、

ついに涼王位につく。


その年号は、太安とした。





或令騎牛及乘惡馬,欲使墮落。什常懷忍辱,曾無異色,光慙愧而止。光還中路,置軍於山下,將士已休,什曰:「不可在此,必見狼狽,宜徒軍隴上。」光不納。至夜果大雨,洪潦暴起,水深數丈,死者數千,光始密而異之。什謂光曰:「此凶亡之地,不宜淹留。推運揆數,應速言歸,中路必有福地可居。」光從之,至涼州,聞符堅已為姚萇所害,光三軍縞素,大臨城南,於是竊號關外,稱年太安。


或るもの令し牛及び乘惡馬に騎せしめ、墮落せしめんと欲す。什は常に忍辱を懷き、曾て異色無かりせば、光は慙愧し止む。光の中路に還ぜるに、軍を山下に置き、將士の已に休めるに、什は曰く:「此に在す可からず、必ずや狼狽を見ん、宜しく軍を隴上に徙すべし」と。光は納めず。夜に至り果して大いに雨し、洪潦の暴かに起らば、水深數丈、死者數千なれば、光は始めて密かに之を異とす。什は光に謂いて曰く:「此れ凶亡の地なれば、宜しく淹留すべからず。運を推し數を揆せるに、應は速やかに言に歸すべしと。中路にては必ずや福地にして居すべきらん」と。光は之に從い、涼州に至らば、符堅の已に姚萇に害さる所為るを聞く。光が三軍は縞素し、城が南に大臨し、是に於いて號を關外に竊い、年を太安と稱す。


(高僧伝2-5_術解)駅は




呂光、これ見ず知らずのクマーラジーヴァが苻堅に希求されてたことに怒りとか妬みがあったんでしょうかね? ずいぶんな仕打ちをしていますけど。しかしそいつをさらっと流すクマーラジーヴァ。オットナー!


ここでクマーラジーヴァの予言が洪水そのものでなく、将士らのパニックであることが興味深いです。では、景観及び天候からの予測ではないということ? あくまで人に属するものしか見えない、というのは、便利なような、不便なようなですね。

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