異世界無頼魔人ガンゾウ
一狼
第1章 至福のチーズ
第1話 プロローグ①
脳髄を斬られた事はあるか?
兎に角痛い。
腕を切り落とされようが、足を飛ばされようが、あげく、頭を叩き割られようが再生する。
再生するが、その痛みは細胞の一つ一つに刷り込まれ決して無くなることも馴れることも無い。
切り落とされた腕は直ぐに切断面を合わせれば、黒い煙を出しながらくっつく。
しかし、皮膚には繋ぎ目がケロイドのように残る。
この世界に転生して最初に頭を断ち切られた。
文字通り目の下、鼻の頭の上を水平に断ち切られ、頭が飛んだ。
だが俺は転がった頭を自ら体に乗せ、押し付けていた。
もちろん無意識。
普通ならそれで死んでしまうところだが、俺は死ななかった。
それからというもの、毎日のように体のどこかを壊され再生、切られた部位は断面を繋げば良いのだが、始末に終えないのは怪物達に喰われて咀嚼されて飲み込まれた時だ。
咀嚼されて、細胞が、骨が、砕かれ溶かされる痛みが細胞の一つ一つに刻み込まれるのだ。
痛いなんてもんじゃない。
狂うことも出来ない。
そして、怪物に吸収された後、俺の細胞達の復讐が始まる。
俺の細胞達は、怪物の体を栄養に怪物の中で元の形を作っていく。
その過程で、怪物が持つ特徴、能力を吸収して育つ。
喰われて一旦怪物に吸収された俺の体の一部は、怪物の能力と膂力を細胞に染み渡らせて怪物の腹を破り、俺の元へ帰ってくる。
何度も何度も何度も・・・
はじめの頃は、戻ってきた手足は歪なサイズと形で、それが俺にくっつくと、俺自身が怪物に見えた。
出来の悪いフランケンシュタインみたいだった。
しかし、それが繰り返される度に俺の体は、皮膚のケロイドは多少残るものの、転生してきたときより少しだけマッチョになったような状態で落ち着いた。
怪物達から得た能力は、筋力的な強さだけではなく、『魔法』的な能力が圧倒的に多かった。
人間は魔法なぞ使えない。
少なくとも転生前の俺が住んでいた『日本』には居なかった。
今は『何が出来ないのか?』を探す方が難しい。
あげく、背中に巨大な『蝙蝠』のような『羽』が出現した。
驚いたことにこの羽は、念じれば消え去り、念じれば出現して俺を空高く舞い上がらせる。
なぜ『転生』となると『中世ヨーロッパ』的な雰囲気なのだろう?
俺が転生した世界もそうだ。
スマホやパソコンはもちろん、自転車すら無い。
誰が何の目的で俺をここへ送り込んだのか分からないが、この5年で『喰われて』『壊されて』『蘇生して』を繰り返してきた。
痛みと苦しさの記憶だけは一つも忘れていない。
誰を恨むとかじゃないが、こんな経験を5年も続ければ、性格も歪むと言うものだ。
今では怪物達に喰われることも無くなった。
何故なら食われる前に殺してしまうからだ。
そして今日もミノタウロスの首を3つ頭陀袋に放り込んでギルドの扉を開いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます