21 ありがとう
シルバーノームを訪れてから数年が経ち、私はたくさんの幸せに出会うことができました。
大きなスケッチブックを広げて、大好きな家の前の風景を描いていました。
隣では、息子のウィルがグルグルと楽しそうにお絵かきをしています。
父であるハーバートさんの髪にそっくりで、つい頭を撫でてしまいます。
そうすると、顔を上げてにっこりと笑いかけてくれるので、今度はハーバートさんにそっくりなお目々が私を見てくれて、ふっくらとした頬を撫でてしまいます。
もちろん、ハーバートさんに似ていなくても、愛らしいと思う気持ちは変わりません。
私に似た女の子なら、また違う可愛さがあるのだろうと、ハーバートさんは言っていました。
「ウィル、上手に描けたね」
色々な色で描かれたたくさんのグルグルは、虹色のお花畑のようでもありました。
ウィルは褒められたのが嬉しいのか、またたくさんのグルグルを描き始めました。
「いい絵だな」
背後からかけられたその声を聞くだけで、穏やかな気持ちにもなれるし、鼓動が跳ね上がりもします。
ウィルはその姿を見て嬉しそうに立ち上がって、駆け寄っていきました。
でも、歩き始めたばかりで、まだ覚束ないところがある足取りなので、走ればこけることも多く、
「あっ」
何かに躓きかけたところを、ハーバートさんに抱き上げられていました。
ホッと、一安心です。
「ぱぱ」
大好きな父親に満面の笑顔で抱きつく姿は、宗教画で見た天使の姿のようでした。
何かが満たされるような光景で、胸がいっぱいになります。
「さぁ、もう寒くなるから、体を冷やす前に、今日はもうこれくらいにして家に帰ろう」
「はい」
身の回りに置いていた物を片付けてから、立ち上がります。
立ち上がりながら考えていた事は、家では、温かいスープができているので、今日はそれにチーズを少しだけ入れて、パンと、町の人からいただいたお肉は、香草と一緒に焼いて……
「何かデザートを作ろうか?」
私の思考に話しかけるようにハーバートさんが言ったので、やっぱり心が読めるのではないかと疑いましたが、
「パイが、食べたいです」
遠慮なく希望を伝えます。
「分かった。食欲が戻ってくれて嬉しいよ。届けられたりんごでアップルパイを作るから、楽しみにしててくれ」
いつもと変わらない微笑を向けられ、さりげない優しさにも甘えながら、家族みんなで家に帰りました。
これが私の幸せです。
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