俺だけ無敵の白金獣魔師≪プラチナテイマー≫ 〜多数決でクラス追放された俺、実は伝説のチートジョブだったらしい。戻ってこいと言われてももう遅い。既にもふもふ達と気ままに楽しく異世界攻略してるので……〜
蒼月浩二
プロローグ:虐げられた少年は異世界転移する
キュルルル……。
うっ、お腹が痛い。
理由は分かっている。教室に行きたくないのだ。
より正確に言えば、あのクラスメイトたちと会いたくない。できることならこのまま帰ってしまいたいくらいだ。
俺の名前は
多分、俺が半年間受けてきたのは『虐め』ってやつなんだと思う。
通りすがりに唾を吐かれたり、下駄箱に汚物が入っていたり、椅子に画鋲が設置されていたり。
毎日毎日、不愉快な思いをしてきた。
今日もこんなことが始まると思うと、朝から憂鬱なわけだ。
入学当初に押し付けられた飼育委員のノルマを終わらせると、決まってお腹が痛くなる。
このノルマが嫌だというわけではない。最初は嫌々引き受けたが、優しい
問題は、朝一の用事を終わらせると嫌でも教室へ入らなければならないということだ。
今日も『いじり』と称してあの二人を中心に虐められる運命なんだろう。
——大きくため息をつき、俺は教室の扉を開けた。
挨拶なんてしない。返事をしてくれる友達なんていないからな。
まずは机の中にゴミが入っていないか確かめる。
次に椅子を壊されていないか確認する。
「——ふう」
良かった。
今日は噛み終わったガムが椅子にベットリくっついていただけだった。
「チッ、確認なんかすんなよ!」
パンッ!
虐めの主犯格の一人、
かけていた眼鏡が床に落ちた。
「……ご、ごめん」
「ああ?」
「……すみませんでした」
俺は聖斗に謝罪して、ガムのついた椅子に座り込んだ。
聖斗を中心にクラス中が爆笑に包まれた。
これを第三者が見れば酷いと思うかもしれない。
しかし今日の俺は極楽気分だった。この程度で済んで良かった——と。そう言えば朝の星座占いでは一位だったっけ。あれって当たるもんなんだな。
なにはともあれ、これでようやく気分の悪いモーニングルーティンを終えられる——と思った時だった。
「ねえ、あんたちょっと廊下まで来なさいよ」
こいつは
正直言葉を交わすだけでも吐き気がするのだが、余計な怒りを買ってさらに虐めが酷くなることだけは避けたい。
なんたって今日はせっかくラッキーな一日なんだからな。
「廊下?」
「ええ、ついてきなさい」
「……わかったよ」
俺は渋々湯乃佳の後をついていく。
しかし今日はいつもと様子が違った気がする。いつもなら廊下に呼び出されることなんてない。一度もなかった。
それに、いつもよりほんのり頬が赤かったような……そんな気がする。熱でもあるのだろうか。
そんな湯乃佳の珍しい様子に興味を惹かれたのか、クラスの大半がゾロゾロと聞き耳を立てているのがわかった。
「あ、あのさ……悠人」
「何の用なんだ?」
「悠人は、私のことどう思ってるのかな? ……って思ってさ」
「どうって?」
「だ、だから……私がちょっと聖斗と一緒になってからかったりしてたこと。気にしてる?」
なにを今更。
気にしてない訳がねーだろ。
盗撮して俺の写真をネタでばら撒いたり、体操服を切り刻まれたり、机に死ねって彫られたり。
これで気にしないアホがいる訳ないだろ。こいつは脳みそが足りないのか?
しかしそんな内心は隠して、満面の作り笑いを浮かべながら答えた。
「全然、まったく気にしてないよ。え、っていうか俺ってからかわれてたの? あはは……」
俺の反応を見て安堵したように、湯乃佳はホッと息を吐いた。
「あー、良かった! それでさ、今日呼び出した理由なんだけど……」
「うん」
「私、ずっと悠人が好きだったの」
「え?」
「あ、あのね……だから、もし良かったら、これから付き合ってほしいの」
な、何言ってんだこいつ……。
どういう風の吹き回しか知らないが、それで俺が頷くとでも思ってるのか?
いや、それ以前に何か裏がある。そうとしか思えばい。
こいつは俺を嫌って、毎日執拗に悪口を吐き、風神聖斗と共謀して俺を虐め続けた。
でも、万が一……万が一これが本当だったら、湯乃佳は学年一の美少女。俺だって元から嫌いだったわけじゃない。昔は一緒に楽しく遊んだ仲だった。
お人好しがすぎるかもしれないが、もし昔に戻れるなら——
いや、その前に。
「でも、聖斗と付き合ってるだろ?」
「聖斗とは別れたの。高校生の恋愛なんてそんなもんじゃない?」
そう言われてみればそうだが……。
正直、突然こんなことを言われるとは思わなかった。どうして良いかわからない。どうするのが正解なのかわからない……。
俺が頭を悩ませていると、湯乃佳は小声で囁いてきた。
「ねえ、悠人。私と付き合ったら、虐め……からかわなくなるわよ?」
「え?」
「聖斗とは価値観の不一致で別れたけど、喧嘩したわけじゃないの。私のことを今でも大事にしてくれてる。その彼氏をからかうと思う?」
「それは思わないが……」
「じゃあ、どうする? いますぐ返事が欲しいの……」
上目遣いで俺を見てくる湯乃佳。
もしこれから先、過酷な毎日から開放されて、普通の高校生活を送れるようになるのなら、過去のことを水に流す……ことはできないが、表面上は仲良くしても良いと思う。
いや、間違いなくそうするべきだ。
もう二度と現れないかもしれない転機。
逆にこれを逃せば、湯乃佳の恨みを買い、もっと悲惨なことになってしまうかもしれない。
まだ一年生……入学してから半年。
あと二年半のことを思えば、今までのことなんて些末なことだ。
「わかった、ありがとう。……これからよろしく」
皆が聞いているということもありかなり照れ臭かったが、勇気を振り絞って答えた。
その次の瞬間だった——
「ぷっ……ぷぷぷぷ……ぎゃはははっ! 本気にしてるのマジウケる——!」
「……!?」
湯乃佳はいつもの意地の悪いを浮かべて、俺をバカにしていたのだった。
「ほーーーんっとちょろいわアンタって。ちょっと化粧で顔赤くしてそれっぽい雰囲気にすればすぐコロッといっちゃうんだもんね。なに? 私と付き合えると思った? このキモ猿!」
「…………」
人はここまで残酷になれるのか……。
俺は恥ずかしくて、情けなくて、穴があったら入りたい気持ちでいっぱいになった。
いや、いっそ穴なんかじゃなく俺のことを誰も知らない世界——そう、異世界とか
「よお悠人、俺の女に手を出そうとしたのォ? てめえただじゃおかねえからな!」
「もー、やめたげなよー。聖斗の言う通りになって面白かったじゃない?」
「バカ、それ言うんじゃねえよ! さすがに可哀想だろ? ギャハハ!」
「…………」
俺は無言で教室へ戻る。
ホームルームで担任教師が来るまでの隙間時間。
延々と俺の話題で嘲笑され続けたのだった。
味方なんて誰もいない。親に相談したら『虐められるお前にも原因がある』。教師に相談したら有耶無耶にされる。
「どうすりゃいいってんだ!」
俺はついに耐えかね、机をドンッと叩いた。
その次の瞬間。
目の前の時空が歪み、一瞬で視界が真っ白になった。
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