【完結】 18禁勇者 〜英雄になった男は呪われようとフルチンでハナクソをほじりながら国民に愛され続けて逞しく生きていきます〜
こまつなおと
第1話・閃光のタケシ
「しけてんなあ……、今日の夕飯はトカゲだけかよ。しかも一匹……。」
彼の名前は涼風武、通称『閃光のタケシ』と呼ばれて五年前までこの地上で暴虐の限りを尽くした魔王とその配下たちを仲間とともにを一掃した『勇者』である。
元々は日本で某有名企業のグループ会社に勤務していたサラリーマンだったが、ある日、彼の浮気が奥さんに見つかってしまい、思いっきり引っ叩かれてしまった。
そして、その衝撃でローンを組んで購入したばかりのマイホームで、無惨にも頭部を強打したことで38年間の人生に幕を下ろすことになったわけだが。
気が付けば彼はこのリユツーブ王国で目を覚まし、第二の人生を送ることになったのだ。
そこから彼は勇者として順風満帆な人生を送ることになり、幸運に幸運を重ねて強力な仲間と出会い、彼らとともに偶然に偶然を重ねて魔王を倒すことができた……わけだが。
彼の人生はそこから転落することとなる。
「どうして国王様がくれた褒美が呪いのアイテムなんだよ……、おかげで何っにも装備できないじゃん。」
彼は他国からも人格者として尊敬の念を集めていた当時のリユツーブ王国の国王・シヨミから褒美を貰っていたのだ。
そして、当のタケシもその褒美が王国の国宝中の国宝だと知り、大いに喜んだ。
それは拝領の儀が執り行われる前に民衆に知れ渡ることになったわけで、それが逆に彼に転落の人生を強制することになったのである。
「寒いな……、もう夕方か。この時期だったら寒くて当たり前か。でも…………、俺って呪いのアイテムのおかげで衣服が装備できないんだよね。暖を取れないじゃない……、へっぷし!!」
彼が国王から拝領された呪いのアイテムとは、彼の頭に装着されている『オデッセイの王冠』である。
この王冠を装備したものは例外なく永続的な呪いをその身に受け入れざるを得ないのだ。
そして、その呪いとは『王冠を除くあらゆる防具の装備とアイテムの使用を拒む』と言うものだ。
それ故、彼は秋風に吹かれるこの時期に真っ裸なのだ。
「くそう、アイテムが使用できないから暖炉どころから火打ち石も使えないんだよね。……ああ、毛布もアイテムじゃん!! ぶわっくしょん!!」
彼が王冠から受けた呪いは思いの外、対象の範囲が広いためタケシはその生活を通じて、手探りで使えるものを見分けていかなければいけないのである。
彼はこのような生活を1ヶ月も継続しているわけだが、彼の体にもそろそろ限界がきていた。
それは何故か?
彼が中途半端に頭が良いからである。
バカは風邪を引かない、つまり中途半端に頭が良いと風邪を引くのだ。
「あ!! そうか、魔法を使って火を起こせば良いんだよ!! 俺って頭良いな、ヤッベ、名案!!」
タケシは凍える真っ裸の自分自身に暖を与えるべく、火炎魔法を使うことにした。
だが何度でも言おう、……彼は頭が良いと言っても『中途半端』なのだから。
「うわっ!! やべえ、周りの草木に引火しちゃったよ!!」
それでも思うところはある、何しろ彼は人里離れた山奥に暮らし、そこには彼が寝泊まりできるような民家などないのだから。
それは何故か?
何しろ王冠にとっては民家も『アイテム』なのだから、彼は民家に入れないのだ、そして、追い討ちをかけるかのように彼が真っ裸であるが故に人里にも住むことが叶わないわけで。
「くっそおお!! こないだも人里に食料を買いに行っただけで猥褻物陳列罪で王国騎士に追いかけ回されるし!! しょっちゅう職質されるし!!」
だが彼はそれでも強く生きている、それは彼の精神力が為せる技である。
彼には支えてくれるものがあった、それはともに戦った仲間の存在だった。
彼には大切な仲間が四人いた、その中でも特に彼にとって支えとなっている存在はこのリユツーブ王国の姫である。
名前はリン、名前を具現化したような凛とした彼女の美しさは、すれ違うものたちが思わず振り返るざるを得ない、まさに『絶世』と表現しても差し支えがないだろう。
だが彼にはアイテムを手に持つこともできない訳で、……つまりは写真もアイテムなのだ。
その故に、愛おしい女性の写真が写った写真も手にすることができない彼は、……その写真を近くの木に釘で固定するしかない。
「ああ、ああ……。こないだ定期連絡で来た騎士に頼んで写真を固定して貰ったけど、どうして騎士なのに仕える主人の眉間に釘を打つかな。リンの美しい顔が……シワクチャになってるよ。」
彼は真っ裸であるが故に職質を避けるべく王都を離れ、人里離れた山奥で孤独な生活を送っているものの、それでも人肌が恋しいと思うこともある。
だからこそ、恋人であるこの国の姫の写真を見ては涙をするわけだが。
そして、そんな彼を憐れんだ姫は彼と交流をすべく、定期的に王都から騎士がやって来て手紙を渡すのだ。
だが、手紙もまたアイテムであることから彼はそれをまだ一つも目を通していない。
彼は山積みになった姫からの手紙に悲しそうな表情で見つめるも、見つめる時間が長ければ長いほどに虚しさが増していくことを感じることになる。
……そして、彼が背中を預ける木から一枚の葉っぱが緩やかに舞い落ちてくるではないか、まるで流麗なワルツでも踊るかのように。
ひらひらと、ひらひらと一枚の葉っぱが彼の元へ落ちてくる。
そして、一枚の葉っぱが彼の体の『とある部分』に落ちる様子を見て彼は大声をあげて歓喜するのだった。
「ああ、葉っぱってアイテムじゃないのか!! じゃあ葉っぱを使えば良いんだ、……これで猥褻物陳列罪とはオサラバできるぞ!! 職質もされなくなるじゃないか!!」
彼は巷で有名な猥褻物陳列罪の常習犯なのだ、……勇者のくせに。
勇者であるが故に例え捕まっても恩赦となることから、彼は王都の警備兵から煙たがられているわけだ。
そして、何よりも彼が身に付けている呪いの王冠は『武器だけ』は使用や装備を拒んでいない。
つまりは……タチの悪い痴漢と大して変わらないと言うことになる。
そして彼は真っ裸のまま自分の生活に希望を見出したと歓喜して、魔王にトドメを刺した愛刀『エクスカリバー』を手に大いに叫ぶのだった。
「もう誰にも『お前のエクスカリバーは下半身に付いているんだ』だなんて、言わせないからなあああああああああああああ!!」
こうして彼はこの孤独な生活にピリオドを打つべく、一歩前進するのだった。
夕日が落ちる秋の空に彼は真っ裸のまま、新たな発見に感動の言葉を叫ぶ。
「うおおおおおおおおお!! 俺は二刀流だああああああああああ!!」
勇者は葉っぱにハッパをかけられるのだった。
一人の男がいた。
現代日本から異世界に転生した一人の男が。
彼は転生先で初めてその足を付けた土地を領土とする国家で、その国王様に勇者として認められた。
すると彼は伝説の武器と防具を与えられ、気高き誇りを有するそれらを纏って颯爽と冒険の旅に出る。
その旅の最中、出くわす強力なモンスター、荒れ狂う海、怪物が犇めく雄大な空、数えきれないほどの危険を冒し、その都度勇敢に立ち向かっていった。
冒険は熾烈を極め、その双肩にかかる国家の未来と民衆からの期待が彼を精神的に追い詰めた。
しかし出会いが彼の支えとなり、試練を超える強さを与えてくれた。
大国の王子、揺るぎない信念を胸に抱いた盗賊、強固な鎖で縛られた魔王の傀儡そして……最初の国家で出会ったその国の美しい姫。
仲間達は戦力としてだけではなく、その戦いの中で真の絆を育み、その笑顔こそが彼にとって支えとなった。
やがて彼は真の勇者に成長し、人間たちの悲願である魔王の討伐を成し遂げた。
民衆は彼を讃え、国王もまた彼に労いの言葉とともに褒美を与えた。
その褒美とは……。
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