第22話 僕の背中
ひとしきり泣いた
「して、ボランティア部はどんな風に我々パソコン部を手伝ってくれるのかな?」
「わたし達にできることなら何でもです。話を聞いてるとパソコン部のみなさんはすごいから、わたしにできることなんてあるかわからないですけど」
「なななななな何でもというのは本当でござるか?」
「は、はい。プログラミングとかは全然無理ですけど」
「そういうのは拙者達の仕事なのでな。安心してくだされ。んふふふふふ」
だけどいきなりヤラせてくださいとお願いしても
僕らクソ童貞の妄想が現実の女の子には通用しないことを思い知るがいい!
「では
「え! 大丈夫ですか」
「待って
おっぱいと言い掛けたところで倒れたのは三年生の
そんな
聖女である
「で、でも突然倒れて」
「川瀬と同じ現象だからあんまり気にしないで。
「それはそれで心配だよ」
「
奉仕精神に溢れた天然サークルクラッシャーは本当に恐ろしい。これだったらまだ陽キャだらけの運動部でボール拾いでも部室の掃除でもする方がマシだった。元々は校内美化をしていたわけだし。
しかも
「あああああ、あの、スカートをめく……めくて、んんん!!!」
入部した際、人生の最期は太ももに首を絞められたいと言っていた一年生の
「
「何もしなくて大丈夫。きっとみんな幸せな夢を見てるから。
「とてもそうとは思えないんだけど」
挙動不審なオタクが噛み噛みで何か言ったかと思えば勝手に気を失って倒れていく。こんな異常な光景を目にしたら普通はすぐに逃げ出すところを
女子と接する機会がほぼないパソコン部にとっては貴重なひと時だ。きっと今日の日のことを胸に生きていくに違いない。
「ふ……ふふ。我は諦めぬ。これは千載一遇の好機。例え通報されようとも、我の脳にその景色を刻み込めがいくらでも再生できる」
倒れていった部員達の無念を晴らさんと
「お願いだ。我々に女体の神秘を教えてくれ!」
部長は勢いよく直角に頭を下げた。僕が今まで見てきたどの謝罪会見よりも潔い頭の下げ方には感動すら覚える。
それほどまでに
「にょ、女体の神秘というのは……」
さすがにストレートなワード過ぎて頼まれた
「女体の柔らかさ、ぬくもり、匂い。全てを知りたい。それをVRに反映できれば最高の二次元美少女が生まれて我々オタクが救われるんだ!」
「あの、つまりわたしは何をすれば」
「可愛いポーズをたくさん見せてください!」
「は?」
思わず声を上げたのは僕の方だった。
この流れは裸を見せろとか触らせろとかそういう展開になるはずだ。だって
『なんでも』と来たら『ん?』と返すのがオタクの流儀であり、そこからゲスな妄想を垂れ流すのが最高に楽しい時間だ。
「
「本気も本気だよ
「そういう意味じゃありません。
「なっ! それはリアルでは超えてないならない一線なんじゃ」
「そうです。でも、二度と訪れないかもしれないチャンスを逃していいんですか。真剣に頼んだら受け入れてもらえるかもしれないじゃないですか」
僕は熱弁した。普段は教室の隅で大人しくしているけど、オタクだらけの空間でスイッチが入るとつい熱く語ってしまう。きっとこれもオタクの悪いところだと頭ではわかっていても止められない。
オタクは性格ではなく生き様なんだと思い知らされる瞬間だ。
「部長も、みんな見ててください。これがスクールカーストの最下層を生きるクソゲスオタク童貞の生き様です」
あいつらがウェイウェイ調子に乗るのもわかる気がする。一度味わったら忘れられない高揚感は次の高揚感を求めさせる。僕らが負のループでどんどん二次元にのめり込んでいくのとは反対に、陽キャはこうして様々な経験を積んでいく。
「
「え? え?」
「でも通報だけはやめて。あらかじめ
「ならお願いしなければいいんじゃ……」
いまいち状況を飲み込めていない
それでも僕はわずかな可能性に賭けてみたい。一緒に水着を買ったり、お風呂に入ったり、足を舐めたりした仲だ。もしかしたら許可が下りるかもしれない。
他のパソコン部員ではできない。僕と
僕は当然のように床に膝を着いた。パソコン室は床にカーペットが敷いてあるので膝に優しい。縮れた毛が視界に入ったのは一旦忘れよう。男子しかいないんだからそんなこともある。
「
正座した僕を見下ろして
「
両手を床に着けたら準備完了。その時が来る直前まで彼女の目をじっと見つめる。正直、かなり恥ずかしい。だけど、これから口にすることは女子と視線を合わせるよりも恥ずかしい行為だ。こんなところで怯んでなんていられない。
結局、パソコン部のやつらよりも僕が一番ゲスでケダモノだった。みんなを悪者にして
今のパソコン部が本当に求めているもの。
「
「バカなの!?」
カーペットにこすりつけた頭がむずがゆい。ちらりと視線を上げると
周囲から聞こえる感嘆の声が心地良い。これが元からプライドを持っていない男の背中だ。
女子の裸の代わりにはならないと思うけど、それなりにおもしろいものは提供できたと思う。パソコン部への助っ人はこれで完了ということになりませんか?
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