第6話 アルバート様の秘密

 今まで、それなりの教育を受けてきているのではないの?

 ミスター・カワードは髪と同じ銀色の眉をひそめて、神妙な顔で頷いた。


「噂になっては困りますので、一部の者しか知りません。アルバート様は、一度見聞きしたことはお忘れにならない抜群の記憶力をお持ちでいらっしゃいますし、視力にも問題はないようですが、どういうわけか紙に書かれた文字や図形を認識できないとのことです。ですので、一度耳にした本の内容を忘れることはなく、そらんじることすらおできになりますが、『文字を読んでいるわけではない』と」


「では、アルバート様のお部屋に立派な書架があるのは……」

「『読めないものは仕方ない、世界中の本を耳で聞いてしまえば当面は事足りる』とのことで」

 そこまで聞いて、私はようやく自分が勘違いしていたことに気付いた。


(アルバート様は、文字が読めない。【アーヴィン夫人の情事】は、題名も内容も知らなかったんだわ。どなたかが書架の最上段、他の方の目のつきにくいところに置いていった本で、姉姫のロジーナ様にも読んでもらったことがない本だったんだ……!)


 嫌がらせされたと決めつけていたけれど、もしかしたらアルバート様がようやく私を家庭教師として適任か、試してみようとしていたのかもしれない。


「ミスター・カワード。私、アルバート様ともう一度お話してきます!」

 歩み寄る機会を不意にするわけにはいかないと、私は急いで来た道を引き返した。

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