箱庭
芝ゆずこ
ふたり
新緑の芝生。紅茶の香。白い机と二脚の椅子。
「おねえちゃん、紅茶がはいったよ。」
澄み切った空。色とりどりの花畑。
「ありがとう、メイ。」
白いドレスに身を包んだ姉が振り返る。ドレスの裾が芝生に擦れてサラサラ鳴った。
「おねえちゃん、何していたの?」
「小鳥とお話。」
「今日は小鳥ね!おねえちゃんはどんな動物とも会話できるからほんとにすごいねえ。」
メイは大きな瞳を爛々と輝かせた。
桜色の唇の口角をきゅっと挙げてメリが答える。
「それほどでも。」
「今日はスコーンを焼いたのよ。昨日作ったノイチゴとブルーベリーのジャムにぜったい合うと思って!」
メイはご機嫌な様子。小屋から焼きたてスコーンの入ったバスケットを持って庭へ走ってきた。と、黒のドレスの裾を踏んでしまった。
「おっとっと!」
「危ない」
メリがさっとメイの肩を支える。
「危なかったあ。スコーンがひっくり返るところだったね。バスケットで足元がよく見えなくて。ありがと、おねえちゃん。」
「気をつけてね。」
「はあい。」
はしゃぎすぎたと、反省したのか今度は裾を踏まないようゆっくり歩くメイ。赤い唇が難しそうに歪んでいる。メリはそこまでしなくても、と呆れたように微笑んだ。
「ねえねえ、おねえちゃん。」
「なに?」
「今日のスコーンで小麦が切れてしまったの…。明日買ってきてくれない?」
「わかったわ。」
「ありがと、おねえちゃん。ほんとうは、私が買いに行きたいのだけど、やっぱり買いに出ちゃいけないのよねえ。」
「だめよ、絶対。」
メリを取り巻く空気がピリリと変わる。
それを察知したメイは項垂れた。
「ごめんなさい。もう言わない約束だったわ。」
「わかればいいの。」
メリはメイを抱きしめ、頭を優しく撫でた。そして、メイの長い艶やかな黒髪を指に巻き付けては解いて弄ぶ。
「可愛くて清らかな私の天使。」
慈しむように呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます