第12話 氷イチゴと生きた会話

七月になってからの私は最高気温35度の熱を避けるため、朝7時台からギラつく太陽対策に日傘を差し、歩く道も木陰から木陰へと移動し、日が沈むまでは、


熱中症にならない。


を第一目標に掲げて滅多に外出しない生き物と化している。


だけども、生き物だから髪も伸びる。伸びた髪が襟元にかかるだけでと体感温度は上がる。髪を束ねたら束ねたで頭皮の温度が上がる。


んな訳で2ヶ月ぶりに街の美容室まで行き、


「とにかくギリギリ束ねられる短さまでバッサリ切って、中も梳いちゃって下さい」


と美容師の若いお兄さんに頼んで25分後、天然縦ロールからショートボブになった私の足元には毛むくじゃら妖怪、毛羽毛現けうけげんの幼生一体分、現世の物体ではバレーボール一個分の髪の毛が落ちていた。


これを頭に乗せていたんじゃ首が痛くなる筈だ…と今まで我慢していた分スッキリして美容室から出ると、


かき氷食べてから帰ろう、ととあるアーケード街の甘味屋まで行き、氷イチゴを注文したして食券を持って少し混んだ店内で15分程待つ事にした。


待ちながら店内を見まわし、

あ、もう混むほど人が集まってていいんだ。とマスクを外して…ほっ、とため息をついた。


その内商品が運ばれて来てハーフサイズの氷イチゴをスプーンで黙々と口に運んでいる時、テーブル向かいの年の頃70過ぎのご婦人が宇治金時を食べながら、


「いやあ、今日は人の多かですねえ」

と話しかけてこられたので私も「だって、暑いですもん」と自然と会話が口をついて出た。


そうそう、とお互い何となく相槌を打ち、

「私は美容院でカットした帰りでかき氷を食べないと涼んだ気にならないと思ってここに来ました」


「やっぱり宇治金時はここのお店が1番美味しいよ。お店によって抹茶シロップの味が違う」


「そうなんですか?」


「そうよ、だから毎年夏はこの宇治金時を楽しみにしています」



とふわふわした氷を口に運びながらふとした偶然で出会った人との他愛もない会話。


「それでは美味しゅうございました」と空にしたグラスを前に席を立ち私は席を立った。


物理的には偶然居合わせるくらい、心理的にはこの程度の距離の会話が私にとって丁度いい。


お祭りも開かれる。外出で混んでもピリピリする人を見かけない。自己判断でマスク外してもいい。



完全にではないけれど戻ってきた日常を溶けかけた氷と共に噛み締めた夏の午後であった。

















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