ぬぎっこ
(なんなの、アレ⋯⋯⋯⋯?)
ケンヤ=ペトロリアムがモニターに映る人影に眉を顰める。ずんぐりむっくりの分厚い毛皮のコート。赤茶色の刺々しい毛並みが強そうだ。そしてサイズが大き過ぎて手足が、頭すらも出ていなかった。
「なにアレ、変態?」
ピンク色のスク水逆バニースーツの下に、際どさの最先端を行くブーメランパンツ。頭の上にウサ耳を揺らしながら、屈強な偉丈夫が円形のフルヘルの中で目を光らせる。
「見るに耐えないわ⋯⋯」
スク水逆バニーの肩紐をパチンと鳴らす。
と、謎のずんぐりむっくりの毛並みが逆立った。毛皮のミサイルばり。殺傷力を持つ衣装だった。
「見るに、耐えない⋯⋯ッ!」
人体には脅威だろうが、ガソリンオーの超合金には刺さりもしない。微動だにせず弾き飛ばし、巨大なレーザーを返す。氷世界に火柱が立ち上がった。
「あらん♪ お洋服全部燃えちゃったかしらん?」
キャピっとしなを作るケンヤ。五枚のお洋服を脱がしてポンポンスーにしてしまえば勝ちなのだ。わざわざジャンケンを待つまでもない。
だが。
――――やーきゅうーすーるなーら
――――こーいうぐーあいにしゃんしゃんせー
お馴染みのBGMが始まる。ということは、対戦相手は蒸発を免れたわけだ。
――――アウトーセーフーよーよいのよい!
端末にチョキを入力する。負けた。ケンヤは舌打ちする。さっさとピンクスク水逆バニースーツを脱ぎ捨てた。
ピンクスーツ炎上。聞かされていなかった謎仕様にガソリンオーの動力回路が引火する。
「いやーん、猛烈ぅー!」
ガソリンオーが爆発四散した。
♪
「よっしゃ! 勝ったぜ!」
ジャンケン自体は運勝負しかない。高月さんはツルツルになったずんぐりコートの中でガッツポーズを浮かべた。
同時、ガソリンオーが爆発四散。
なんだか分からんが、とにかくよし。これで俺様ファイヤー高月だ、とはしゃぐ。火柱が上がったら喜んじゃうお年頃だった。
「うふん? よぅく見てみたらクソジャリちゃんじゃない!」
ブーメランパンツにピンクのバスローブ。円形のフルフェイスヘルメット。そして、ウサ耳。なるほど、残り四枚の出立ちだった。
「おぅ! その声はきっとおっさんだな!」
「ノンノン♪ 僕ちゃんはお兄さんだよ♡」
――――やーきゅうーすーるなーら
二戦目。
まともに見えているのか分からない端末に指を這わせる小娘を見て、フルフェイスヘルメットの奥でケンヤが口角を吊り上げた。
――――こーいうぐーあいにしゃんしゃんせー
視線が端末に移る一瞬、無防備になったずんぐり少女に焔を投げつける。始炎、白の混ざった赤、それは神が人に与えた最初の炎。
―――― アウトーセーフーよーよいのよい!
「あらん?」
出さないと負けになるらしい。素直にウサ耳を投げ捨てる。
赤白い炎が命中した。炎上を続けるずんぐり少女は全く動じない。
「おおっ!? なんかあったまったぞ!!」
(あのずんぐりコート、とんでもない耐熱・防火性みたいね⋯⋯)
消えずに燃え続ける始炎。ずんぐり炎上コートが跳んで跳ねてはしゃいでいる。
「ここ、寒い」
ケンヤが二人を囲うように始炎を投げる。逃がさないように。このふざけた小娘は全裸にひん剥いて焼き殺す。目標を定めるとケンヤは自分の熱量で温まる。
――――やーきゅうーすーるなーら
――――こーいうぐーあいにしゃんしゃんせー
今度は不意打ちではない。端末に指を置く。
―――― アウトーセーフーよーよいのよい!
三戦目、ケンヤの勝ちだ。
(思った通り――――このジャリ、グーしか出さない)
「んじゃ、お嬢さん! ぬぎぬぎしちゃいましょーね♪」
あのファイヤーずんぐりを脱いだとき。それが決着の瞬間だ。コートの中でもぞもぞ動く小娘。ケンヤが疑問に首を傾けると、炎上するコートから投げ捨てられたもの。
レース付きの水色の布切れ。
JCのブラジャーだった。
なんとなく手を伸ばす。そして炎上。
「あっっつッ!?」
反射で手を引っ込めて氷の大地で手を冷やす。コケにされたような気がして気分が悪い。
(あんの、ジャリが⋯⋯! けど考えたわね、燃え上がったコートを殴ったら僕の拳も燃えちゃう。さて、どうしてくれちゃおうかしらん♪)
それでも、ケンヤは余裕だった。
――――やーきゅうーすーるなーら
――――こーいうぐーあいにしゃんしゃんせー
――――アウトーセーフーよーよいのよい!
四戦目、パーを出すだけでケンヤが勝利する。ルール外の妨害が防がれたのなら、ルールに則って勝てばいい。
(さてさてさーて! 次はおパンティでも投げてくれるのかしらん?)
普通にずんぐりコートを投げて来た。
しかも始炎のおまけ付き。
「ちょ」
全力で回避行動を取る。氷の大地に転がり、張り付きそうになる肌を始炎の熱で冷気から守った。
「うっわ! さっむ! コート脱ぐんじゃなかったぜ!!」
シャドーボクシングで身体を温める少女。
「あらん♪ 所詮小娘、だらしがないようね!」
「ほー! 全然寒くねーもんね!」
鳥肌まみれの少女が腕を組んで仁王立ちをする。痩せ我慢が丸わかりだった。ケンヤが薄ら笑みを浮かべながら拳を握る。
――――やーきゅうーすーるなーら
――――こーいうぐーあいにしゃんしゃんせー
(⋯⋯まあ、痛ぶる前にもう一枚剥いじゃうのもいいかもね)
――――アウトーセーフーよーよいのよい!
チョキvsパー。
ケンヤが固まった。負けた。数秒呆けて、慌ててフルフェイスヘルメットを投げ捨てる。辛うじて炎上する前に間に合った。
「よっしゃ! さっきまで身動き取れなくてグーしか出せなかったらな。やっぱり動きやすいのが一番だ!」
理由がバカ過ぎた。
「て――――――アレ?」
高月さんが首を傾げる。明かされるケンヤの素顔を見て。
「油田戦隊オイルダラーのピンクマーガリンの人だ!
俺様全話見てたんだぜ!」
そう言って、目を輝かせて笑った。
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