第54話 事務所の変化
NBK盛岡事務所。俺たちの感想を伝えたら吾味が手配して魔改造してくれた。俺が目を覚ましたのも病院ではなくここの一室だった。残念ながら布団以外中古だ。プレハブとコンテナをくっつけた事務所はもはや何の施設かわからない。だが、断熱材を吹き付けた中古コンテナは意外に快適だ。気密性が高く、エアコンだけでも相当暖かい。
「こうじょう、みたい」
「大ちゃんが掛け合ってくれたんだって。あとで何かお礼しないとね」
「やすみが、ほしいって」
「それは私たちじゃ無理かなー」
前線で頑張ってた頃はみんなが頑張れば一人の休みくらい何とか出来たが、管理の仕事に回ってしまった吾味には手出しできない。補佐っぽい女性も凄くやつれていたしこっちに帰ってこれるのはいつのことだろうか。
「ただいまーって二人ともどうしたっすか?」
「お帰りリンちゃん」
「かわったところ、みてた」
「お風呂広くなって良かったっすよねー! シャワーだけとか絶対ダメっす!」
コインシャワーみたいな物から1818タイプのユニットバスに変更された。元が元だったから広くて快適。展示場から引っ張ってきたらしいのでこれもある意味中古だ。
「みんな揃ってどうしたんだい?」
今日もキャラが不安定なみちるが帰ってきた。空が安全に飛べるのがうらやましい。滝沢から帰ってきたのに平然としている。
「おかえり、事務所の案内してたの」
「やっぱお風呂は良いなって話っす!」
「一緒に入ろうか? 二人くらいならいけると思うんだ」
冗談なのか本気なのかわからない顔でみちるが言う。とりあえず冗談として流しておこう。
「だいどころ、きれいになってる。たつな、なにかつくれる?」
「うーん… そういうのはみちるちゃんの方が得意かなー」
以前みちるがくれたちょっと不格好なおにぎりを思い出す。それよりも下手…か。見てみたい気もするが無理強いは良くない。自分で出来る分は自分でやろう。
「たつなはしばらく出撃できないし、リハビリに料理を始めたらどうだい?」
たつなは人型との戦いで痛めた肩がまだ完治していない。魔法の出力が安定しないようでこの間の出撃では少し火傷してしまった。そのため現在出撃は控えている。
それもこれも去石の作った怪しい薬が俺とリンのいわゆる第二世代しか効果が無いせいだ。第二世代記念すべき実験体一号は俺だ。
不名誉。
しかしその怪しい回復薬のおかげで何度となく命を救われたのも事実。もし遭遇した場合は礼を言わねばならないのだろうが、気持ちの入らないお礼をすることになりそうだ。
「すこしは、おしえられる」
それは置いておいて今は皆の食事の話だ。事務所が出来てからホテルの食事にありつけなくなって悲惨な飯だ。
この中でも一人暮らしが長かった俺はたぶん二人よりも料理がうまい。まぁ、材料がほとんどジャガイモだったからすぐにレパートリーが尽きそうだが、レーションよりは良いだろう。
安全と栄養補給に特化したタイプのレーションはとにかく不味い。キッチンもまともになったこの機会に自炊を始めたいのだ。あわよくばたつなの手料理を……なんか邪な考えがよぎった。
「お願いしようかな、材料買って来よっか!」
「肉食いたいっす!ニク!」
リンが手を上げてぴょんぴょん跳ねる。肉、美味いけど高い。廃鶏でも100g120円はする。世知辛い。
「そうだね、私も出すからエステルとたつなで買っておいで」
「まってるから、りんといってきて」
買いに行くのはいいのだが抱えて飛ばれると不思議なことに俺だけ寒い。ここは自由に空を飛べる二人に行ってもらおう。それが良い。
「私と行くの、いや…かな?」
たつなめ。そういう言い方をされたら断れない。
「…いく」
スーパーまでの行きも帰りも案の定とても寒かった。だが、鶏肉の鍋はとても温まって旨かった。あと、浸かれる風呂は大変気持ちよさそうだった。病み上がりだからと釘を刺されては入れなかったのだ。風呂があるのに入れないとは、許すまじ人型。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます