【完結】四天王最弱の俺が、次期魔王? 〜最弱なので追放される…と思いきや、魔王や他の四天王からめちゃくちゃ慕われてた〜

shiryu

プロローグ

第1話 追放?


 俺は、そろそろ魔王軍を追放されると思う。

 一応俺は四天王の中で古参という立ち位置なんだけど、古参ということは一番時代遅れということだ。


 そして単純に、俺弱いし。


 四天王の中で一番弱いと自負しているし、他の人も俺が一番弱いと思っているだろう。


 というか、後から入ってきた四天王強すぎ。

 何あの子達、めちゃくちゃ強いよ。


 これでも俺、昔は四天王最強だったんだけど?

 それが何で十数年経っただけで、最弱になってるの? 意味わからないだけど。



「シモン様、魔王様、そして他の四天王様がお呼びのようです」

「ん? えっ、マジで?」


 俺の部下が、そんなことを伝えにきた。

 いやー、マジかー、今日か。


 もうそろそろと思っていたが、まさか今日とは思わなかった。


 最近、俺を抜いた四天王と魔王様がよく会議していた。

 おそらくその時に、俺を追放するということを話していたのだろう。


「はぁ、わかった。すぐ行く」


 俺は覚悟を決めた……というよりも、そろそろ追放というか、四天王を辞めたいと思っていたところなのだ。


 四天王の仕事は多すぎるし、とても大変だ。

 それに俺は先程も言ったが、四天王最弱。とても四天王という上の立場にいていい人間じゃない。


 部下達も優秀なのが多い。そろそろ引き継いだ方がいいだろう。


 うん、そう思うと、俺、四天王を何十年もやってきたから、追放された方が嬉しいな。


 追放されたらどうしようかなぁ。

 田舎に引きこもって、のんびり暮らすのも楽しそうだ。



 俺は魔王城に行き、通り慣れた廊下を歩く。

 ここに来るのも最後になるかもなぁ……何十年と来たところだから、ちょっと寂しいな。


 すれ違う魔王城に務めているメイドや執事などが、俺に会釈をしてくれる。


 四天王を解雇されれば、おそらくそんなこともなくなるだろう。


 よく話すメイドや執事に最後の挨拶として「これからも元気でな」と言うと、とても不思議そうな顔をされる。


 今は意味がわからなくてもいいだろう。


 そして……俺は、魔王の間へと入った。


 魔王の間には、リューディア様が玉座に座っていた。

 綺麗な白い髪は長く、ウェーブがかっていてとても美しい。


 顔は……彼女の母親に似て、とても威厳ある綺麗な顔立ちだ。


 まだ成長期なので、少し身長は低いが、それでも魔王として最強を誇る強さを持っている。


 俺が四天王になった時は、彼女の父親が魔王だったな。


 当時の魔王様と妃様を知っていて、赤ちゃんの頃のリューディア様を見ている俺からすると、彼女が玉座に座っている姿は、とても感慨深い。


 まあ……今、そんな彼女に、四天王を降ろされそうになっているのだが。


 リューディア様の側に仕えるように立っているのが、三人。

 俺以外の四天王だ。


 アダリナ、イネス、ディーサ、とても強い俺の自慢の同僚だ。


 ただ……これから数分後には、俺は同僚ではなくなると思うが。


「お呼びでしょうか、リューディア様」


 玉座の前にある階段に上らず、そこで俺は跪く。

 リューディア様だけじゃなく他の四天王から見下ろされる形になるが、それでいい。


 これが本来の、形なのだから。


「……シモン。急の呼び出しを詫びよう」

「いえ、魔王様の呼び出しとあれば、四天王である私がすぐに駆けつけるのは当然のことです」


 最後の呼びつけになるのだから、最後までしっかりと責務は果たしたい。


「そうか、お前の忠誠に感謝しよう。では、シモン。今日お前をここに呼んだのは、他でもない、ある事柄をお前に伝えるためだ」

「はっ、なんでしょうか」


 とうとう来た。

 これで俺は四天王の任から解かれ、田舎でゆっくりのんびり暮らすのだ――。


「我と他の四天王の会議の結果……次期魔王は、シモン。お前に決定した」

「……はっ?」


 突如、俺の耳がおかしくなったらしい。

 何やら、一番古参で古臭い俺が、次期魔王だなんていう妄言が聞こえた気がする。


「ま、魔王様、一体なんと言ったのでしょうか?」

「聞こえなかったか? 次期魔王を、お前にすると言ったのだ」


 どうやら、俺の耳がおかしくなったのではないらしい。


「な、なぜ俺なのでしょうか? 理由をお聞かせください」

「ふむ、だがその前に……シモン、お前はいつまでその口調なのだ?」

「……何がでしょう、リューディア様」

「それだ。いつもの口調で喋れ」

「……他の四天王もいるので、これがいいかと思います」

「うるさい、我が普通に喋れと言っているのだ」


 ……こうなったら、俺が折れるまで聞かないのがリディだ。

 俺は立ち上がって、ため息をつきながら口調を変える。


「はぁ……わかったわかった、リディ。これでいいか?」

「うむ、それでいいぞ」

「他の四天王がいるんだから、俺みたいな奴にタメ口で話されたら本当はダメなんだぞ」

「我がいいと言っているのだ。他の者にとやかく言われる筋合いはないな」

「ったく、そんな唯我独尊なところは、誰に似たんだか」

「父上だろうな。それはシモンもわかっているだろう?」

「嫌味だよ、わかるだろ」


 リディの父親は本当に厄介だった。馬鹿みたいな無茶を俺に押しつけてきたのは、苦い思い出だ。


「それで、リディ。俺が次期魔王っていうのはどういう意味だ? 四天王から追放、の間違いじゃないのか?

「なんだそれは。お前ほどの有能を、追放するはずがないだろう。次期魔王というのは、言葉の通りだ」


 本当は追放されて、この四天王の激務から逃げ出したかったのだが。


「……まあ追放はいい。だが次期魔王ってのは意味がわからん。俺、お前よりも歳上だし、他の四天王より歳上だぞ? それに、今の四天王の中じゃ、俺が一番弱い。そんな古臭くて弱いおっさんが、なんで今更魔王なんかになるんだよ」


 ……なんか自分で言ってて悲しくなったが、間違ったことは言っていない。

 誰がどう考えてもおかしすぎるだろ。


 魔王とは、魔族の頂点だ。


 魔王が最強なのは当たり前、それなのに四天王で最弱の俺が魔王になるのなんてありえない。

 他の四天王の誰かがなるのはともかく……あ、まさか。


「リディ、お前、魔王の特権で他の四天王の意見なんて聞かずに決定しただろ? それも時と場合によるが別に構わない。だが今回の次期魔王に関しては……」

「いや、四天王の奴らも満場一致で、お前を次期魔王として認めてくれたぞ」

「……はっ?」


 俺は先程と同じように変な声が漏れてしまった。

 他の四天王も、満場一致?


 俺はリディの側に立っている四天王達を見た。


 全員が今のリディの言葉を否定せず、頷いたり、顔を背けたりしている。

 いや、なんで俺が魔王になることに賛成しているんだ?


 お前ら、俺の実力わかっているだろ?

 俺よりも強いお前らが、なんで俺を魔王に相応しいと思ってるんだ?


「ということで、お前が次期魔王になることは決定した」

「リディ、異議あり」

「異議は認めん。四天王の意見も聞かずに決めることが出来るのは、我の特権だからな」

「いや、これもしっかり四天王を交えて……というか、なんで一応四天王である俺が、その大事な次期魔王決めの会議に呼ばれてないんだよ」

「お前だったら絶対に断ると思っていたからな」

「当たり前だよ。一番適任じゃない奴が、なんで魔王なんかに」

「我と他の四天王が決めたのだ。多数決でも我の特権でも、お前が魔王になることは変わらん。諦めろ」

「マジかよ……というか、次期魔王を決めるの早くないか?」


 まだリディが魔王になってから、数年しか経っていない。

 リディはまだ若い、というか大人にもなってないから、まだまだ魔王でいられると思うが。


「早いに越したことはないだろう。それに……魔王は、人族に命を狙われる。我が死んだ時に――」

「死なない」

「っ……」

「リディ、お前は死なない。絶対に俺が守る。だから、死んだ時なんて考えるな」


 玉座に座るリディの目を見つめ、俺は強くそう言い切る。


「……ふっ、ああ、そうだな。シモン、お前はそういう奴だよ。だから、お前が次期魔王に相応しいのだ」

「はぁ? それとこれとは話は別で……」

「とにかく、次期魔王はお前に決定したのだ。異論は認めん。退出してよいぞ、お前ら」


 リディがそう言うと、他の四天王が「はっ」と言って部屋を出て行こうとする。


「ちょっと待てリディ、話はまだ……」

「アダリナ、シモンを連れていけ」

「はーい」


 四天王の一人、アダリナが俺の腕を抱えるようにして扉の方に引きずる。


「お、おい、アダリナ、待て、まだリディに話が……!」

「ごめんねー、魔王様の命令だから」


 ずるずると引きずられる俺、四天王の中で一番力が強いアダリナに勝てるはずもなく、そのまま魔王の間を退出した。


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