第58話:回復術師は計画を把握する
◇
「本当に助かりました……。実は丸一日何も食べていなくて……」
『デスフラッグ』を抜けたという青年は、名前をラックと名乗っていた。
「それは大変だったな。しかしその様子だと、きつかったのは一日ってことでもないだろ。前に見た時と比べてかなりやつれてるぞ」
それほどマジマジと見ていたわけではないが、パッと見の印象が大分違う。
苦労しただけじゃなく、ロクなものを食べていなかったことが伝わってくる。
「実はあの後日雇いの肉体労働をしていたんですが、支給される少ない食べ物もゼネストさんたちに取り上げられて……下っ端の僕は残飯漁りですね……はは」
「笑えないな……」
日雇いの労働といえば、
生きるための最低限の報酬しか与えられない中で、それすらも奪われていたとは……。
「ああ……それで、僕があのパーティから逃げている理由なんですが……」
ラックは俯き、事情を根掘り葉掘り教えてくれた。
「リーダーたちは、明日来るっていう噂の商人を襲うつもりなんです。それで国外逃亡するって……。僕は故郷に家族を残していますし、一生この国に戻ってこれないなんて耐えられないので、逃げ出してきたんです。……みっともないですよね。パーティリーダーの命令は絶対なのに」
「酷い話です……。犯罪を強要するなんて」
「ラックは勇気があると思うわ。盗賊の一味に落ちぶれてもお先真っ暗よ」
俺もリーナ、リリアと同意見だ。
それに加えて、
「そもそも犯罪強要はパーティリーダーに与えられた権限のうちに入らないし、そもそもゼネストは冒険者資格を停止されているから、ただの人だ。その部分について気にする必要は全くない」
「問題は、デスフラッグが計画している犯罪のことよね……」
ヘルミーナは考え込むように呟いた。
「だな。知っちまった以上は俺たちのでその商人の警護にあたろう。未然に防ぐんだ」
「ゼネストたちくらいならユージが動くまでもなくなんとかなると思うわ。そうじゃなくて……うん、これね」
「どうしたんだ?」
「ちょっと、作戦を閃いたの。……ねえ、ラック。私って人を見る目は確かなんだけど、あなたって結構凄腕の回復術士よね?」
「い、いえ……そんな、僕なんて大したことないです。所詮は田舎の中でちょっとできたくらいで勘違いしてここまで来てしまったので……」
ラックは自信なさそうに謙遜するが、俺もフェンリルの一件でラックを見ていたからよく分かる。
「間違いなく一流の回復術士だ。的確な判断能力があるし、並以上のスキルを持っている」
「ええ! いやいやそんなことないですって!」
「ユージのお墨付きなら安心ね。それで、ラックに相談なんだけど……騎士団に入るつもりはない? 冒険者と兼業でいいわ」
「え、ええ!? 僕が騎士団に!? 僕は仕事を選べる立場じゃないですし、騎士団はそんな僕に見合わない名誉ある仕事で、そりゃなれるものならなりたいですが……」
「そう、なら話は早いわ」
ヘルミーナが面白そうににこりと微笑んだ。
「でも、残念ながら王国騎士団ではペナルティ付きの冒険者を雇うわけにはいかないの。ラックには今から冒険者ギルドに行ってもらうわ」
なるほどな、そういうことか。
ヘルミーナがさっき何を考えていたのか俺にも伝わってきた。
「そういうことなら、俺もたまたまギルドに出向かないとな」
「さすがユージね。そういうことよ」
「あ、あの……どういうことですか?」
「私もさっぱりわからないわ。どういうことなの? ユージ」
「後で詳しく説明する。二人も一緒に来てくれ」
そんなこんなで、急遽俺たちは冒険者ギルドに向かうことになった。
単純にギルドに説明してゼネストたちを押さえ込んでも良かったのだが、こうすることでラックを救い、『デスフラッグ』は全員お縄にすることができる。
俺としても巻き込んでしまったラックに関しては心残りだったので、一肌脱ぐことの手間は厭わない。
これで、やっとあの一件に終止符を打つことができる。本当の意味で。
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