第56話:回復術師はまとめる
ヘルミーナは、俺に話した内容を分かりやすく二人に説明してくれた。
二人は興味深そうに話を聞き入れていた。
さっきの件など忘れてしまうほど衝撃的だったのか、場の空気は一気に真面目なものになった。
「なるほど、話はわかりました。でも、いきなりこんなことを信じろと言われても……」
「そうよね。悪いけど、少なくとも温泉で待ち伏せてするほどの話だったとは思えないわ」
「それには俺も同感だ。でも、嘘だと言い切れる根拠があるわけでもない。そもそも、嘘をつく理由はない」
「ユージはこの女が信用に値する人物だというんですか?」
「ヘルミーナ本人は俺だって完璧に信頼したわけじゃない。だが、話していることは事実ベースだし、王国印が押された手帳を持っている以上は、王国からのお墨付きを受けて活動しているということ。疑いようがない」
「理解してもらえて嬉しいわ。さすがはユージね」
「それはどうも。それで、ここからが本題だ。ヘルミーナは、王国からの魔王に関する依頼とやらを、俺たちのパーティに受けてほしいとのことらしい」
「王国の機密情報を見た限りは——」
「任意だ。資料を見せてきたのはヘルミーナだし、ギルドの冒険者約款にも依頼を受けるかどうかは冒険者の意思によるとされている。王国からの依頼についてもそうなんだろう。じゃなきゃ、とっくに王国令で強制的に駆り出されることになっているだろうしな。——そうなんだろ?」
全て分かっているんだぞという気持ちを込めてヘルミーナの方を見た。
「はぁ……バレちゃ仕方ないわね。そうよ、あくまでも任意。機密情報までバラしちゃったけど、断っても私が怒られるだけ。王の考え方で、冒険者の自発的な協力を望むんだと言われたわ」
まあ、そんなところだろうな。
今の王は真に国民のことを想い、国民の自由を尊重してくれている。
それは偽りではなかったということか。
「それで、この件を話しているのは俺たちだけなのか?」
「別に隠してたわけじゃないけど、他にもいくつかの有力パーティには話がいっているはずよ。私はあなたたちにしか話してないけどね」
「なるほどな。それで、他のパーティが引き受けたらこの村に集まってくるのか?」
「半分くらいは近いうちにこの村に来るはずよ。でも、サンヴィル村だという確証はないから、他の村で待機してもらうパーティもあるはずだわ」
「それで、実際のところいつくらいに復活するんだ?」
「近いうちに……。本当に、予言でも正確なところはわからないのよ! 信じて。ここ一ヶ月くらいのいつか——と言われているわ。だから焦っているの」
騙そうとしていた張本人に信じてと言われてもちょっと苦しいが、それも切羽詰まった必死さからのものだとしたら、本当なのだろう。
まあ、冷静さを崩したあたりからはそれほど疑っていないのだが。
「一ヶ月以内に魔王と戦うことになるかもしれない——ということだ。リーナ、リリア、それとシロ。どうする? シロは俺と主従契約があるが、そこは気にしなくていいぞ」
「シロは、ユージが決めたらついていくだけ〜」
「ハハ……決断が早いな。でも、無理する必要はないんだぞ」
「無理してないー」
テイムしてはいるが、話す言葉や思考を制限していない。『俺と、俺の仲間を攻撃することができない』こと以外はなんでも自由に動ける。これがシロの本心ということだろう。これもフェンリルの義理深さゆえだろうか。
シロは強力な戦力になるし、ついてきてくれるというなら素直にありがたい。
そしてついてきてくれるというなら、絶対に後悔させてはならないという思いが込み上げてくる。
「私だって、ユージについていくと決めています。もともとユージに助けてもらっていなかったらなくなっていた命なので」
「初めて出会った時か……。大したことはしてないんだが」
「私もユージについていくわ。私だって、ユージのおかげで救われた。さっきはそれなのに勘違いしてごめんなさい」
「二人とも……」
二人ともついてきてくれるとは思っていた。しかしそれは冒険者としての義務感からだと思っていた。
これほどまでに俺を信頼し、忠義を尽くしてくれるとは正直想定していなかった。
本当に、ありがたい限りだ。
「ありがとう。俺としては、この国で……この世界で冒険者をする一人として、戦わなければならないと思っている。パーティ『レジェンド』の意思として、この依頼を受けようと思う」
俺がそう宣言した瞬間、ヘルミーナは安心からか、目に見えて肩の力が抜けたのだった。
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