王都 ①
王都へと私は向かっている。
クロを一人家において王都に行くことは心配だけど、王都でしっかり稼いでこなくちゃね。
森の中を歩きながら、クロのことや、自分のことを思う。
クロはどうして『魔王』の側近なんて言われているのだろうか。クロは私に何も語ってはくれないけれど、私はクロが何か困っているなら助けてあげたいし、クロがちゃんと生きようって気力を持ち直してくれたらとそんな風に願ってしまう。
私は『救国の乙女』という預言された存在だから、この国から出るのは躊躇われるけれど、クロはちゃんと前を向けるようになったらクロは他国に行った方がいいのかもしれない。
クロがどうしてこういう立場になってしまったのかは私では分からないけれど、クロと過ごしていると何か理由があるのではないかとそう思えるから。
それに私の『救国の乙女』になるだろうという預言も――、結局叶わないまま二十年も経過してしまった。
王都に向かう途中では、よく自分が『救国の乙女』になるだろうと預言されたことを思い出してしまう。二十年後、こんな生活をしているなんて夢にも思っていなかった幼いころの私。
私は何にもなれずに、ただ王都のはずれの森で暮らしている。国からも忘れられ、誰も私の元へ訪れることはない。……まぁ、だからこそ、クロの事をかくまえると思えば良いことだとは思うけれど。
王都に入る際は、いつも裏門から入る。こちらの方が少し検閲が緩いのだ。正門の方から入れば、もしかしたら『救国の乙女』と噂された少女と知られる可能性もある。こちらは犯罪を犯したか確認する魔法具を触るのと、簡単な取り調べでもう中に入れる。
たまにきては薬を売っていく私は、裏門の騎士とは顔見知りになっている。
「今回は久しぶりだな」
「ああ」
女性で一人で薬を売ったりするとぼったくられたりするから、王都に来る時は男装をしている。ともかく、『救国の乙女』と預言された存在だと知られたらややこしいからというのも大きな理由だ。流石に男装して王都にやってくる存在が『救国の乙女』と預言された存在なんて思わないだろう。
大荷物を抱えて裏門から中へと入る。
裏門から入って真っ先に目に映るのは、王都の裏通りだ。
王都だから基本的に治安は良いのだけど、裏通りはたまに変な人もいるので私はさっさと裏通りを通過する。まぁ、何度か来ているうちに顔見知りになった人も王都にはいるし、今の所、変な人間に絡まれた記憶はないけれど。
それにしても王都は裏通りでも人が多い。私が生まれ育った村とは雲泥の差で、はじめて王都にやってきた時、私はそれはもう胸を高鳴らせた。
王都に入って、王城に向かい、『救国の乙女』になると預言された存在だと傅かれ、迎えられた。――今思えば夢のような時間だった。
その夢が永遠に続くと、ただ信じていた。まぁ、本当に夢のように終わった時間だったけれど。
そこまで考えて首を振る。
感傷に浸っている場合ではない。ポーションを売って、クロの事を調べないと。クロの情報を集めて、クロがこれから生きやすいように何か手助けになれたらいい。
私はそんなことを思いながら、王都の中心部へと向かっていく。
裏通りから、表通りへと向かうと、徐々に喧噪が耳に響いてくる。この賑わい、ちょっと懐かしい。そして森の中でずっと暮らしているから、落ち着かない気持ちにもなった。
『救国の乙女』と呼ばれていた頃は、王城から出たことはあまりなかった。王都の街にはたまに慰問などで行くぐらいで、ただ勉強ばかりをしていた。
今の暮らしの方が王都に詳しくなった気がする。最初に王都に訪れた時は、「役立たずの『救国の乙女』が~」などと噂されていて落ち着かなかったなぁ。
最近はもう『救国の乙女』のことを噂さえもなくなってきているから、ちょっと安心している。だって自分の噂を、それも悪い噂を聞き続けるのは気分が少し落ち込むもの。
顔見知りの商人の所へ向かう途中で、「『魔王』の側近が~」とクロの話が聞こえてきた。
王都の所々にクロの指名手配書が張られている。クロを見つければ、賞金がもらえるみたいなのがかかれている。でもただ『魔王』の側近と書いてあるだけで、何をしたのかは書いていない。
クロは何をもって、『魔王』の側近と言われているのだろうか。何をしたのだろうか。その情報を知りたいと思った。
――それが、クロに心を開いてもらうための手がかりになるかもしれないから。
けど、下手に目立ったら、『救国の乙女』と預言された存在だと悟られてややこしいもの。ちょっと悟られることがないようにしながら、行動しなきゃね。
そう思いながら一先ずはもう一つの目的であるポーションを売ることをすませることにした。
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