第30話『栞と来客』

滅鬼の刃 エッセーラノベ    


30『栞と来客』   






『お祖父ちゃん、お友だちがいらっしゃったわよ!』



 図書館に行くと言っていた栞が階段の下から呼ばわります。


 ドアホンの調子が悪いので、来客は玄関の戸を叩いています。


「はい、どちらさまでしょうか?」


「○○と申します、大橋さんは御在宅でしょうか?」


「あ、祖父ですね、少々お待ちください」


 というやり取りがあって、最初の『お祖父ちゃん、お友だちがいらっしゃったわよ!』に繋がります。




 栞は、こういうところがあります。


 来客があると、その声の調子でおおよそのところを察してしまいます。


 セールスや勧誘などは、いちいちわたしに次げずに対応し、たいていは撃退してしまいます。


 わたしへの来客も、勘なのか、どこかで憶えたのか「町会の○○さん」「公〇党の▢▢さん」「共〇党▢▢さん」「同窓の○○さん」「お友だちの○○さん」と告げる、あるいは呼ばわります。


 小さな家なので、たいてい栞の声も来客に聞こえてしまいます。


 単に「お客さ~ん」とか「誰か来てるよ」ではそっけないと思っているようです。


 来客も「お友だちの~さん」などと呼ばれると気分が良いようで、栞の評判は上々です。


 一度「お友だちの○○さんよ」と言って失敗したことがあります。


 やってきたのは、友人○○の息子でした。


 前の月に○○は亡くなっていて、葬儀の後、遺品の整理やら連絡を手伝ったお礼に息子さんがお礼に来たのを間違えたんですね。声がよく似ていたので、つい間違えたのです。


 栞は恐縮していましたが、息子の方は「ひょっとしたら、親父も付いてきたのかもしれません」と床しく思ってくれました。




 さて、今日の来客は武者走といいます。




 お気づきになったかもしれませんが、わたしのサブペンネームが武者走で、こいつの苗字をそのまま使わせてもらっています。武者走はずっと高校の先生をやっていたのですが、再任用も五年前に終わって、暇を持て余している不良老人です。


「もう古希も超えてしもたし、ちょっと現役時代のことを振り返っとこと思てなあ。自分で書いてもええねんけど、お前以上に根気も文才もあれへんし、ブログに書いてアクセス少なかったら凹むしなあ。お前やったら、しょっちゅう書いてて慣れてるやろ。気の向いた時でええからさ、まあ、散歩のついでに寄って語る感じでさ、文章にしてくれへんか」


「その気の向いた時っていうのは、俺のか? お前のか?」


「あはは、まあお互さまや(^_^;)」


 


 そこへ、栞がお茶を持ってやってきました。




「なんだ、図書館行くんじゃないのか?」


「ふふ、こっちの方が面白そうだし。お祖父ちゃん、引き受けたら?」


「簡単に言うなよ」


「お祖父ちゃんもネタ切れで、ここのところ停まってたじゃない」


「そうか、ひんなら話は決まりや!」


「おいおい」


「おいおい書いてくれるんだそうです」


「そうか、話は決まった。そうや、記念に一杯やろうや。栞ちゃん、お代は俺が持つからデリバリーでなにか頼んでくれへんか」


「あ、やったー! 晩御飯の心配無くなったぁ(^▽^)/」




 ピザと寿司と缶ビールで盛り上がり、肝心の記事のネタは次回からと言うことで、迎えに来た息子に介抱されながら悪友は帰っていきました。


 はてさて、どうなることやら。




☆彡 主な登場人物


 わたし        武者走走九郎 Or 大橋むつお

 栞          わたしの孫娘 

  武者走                   腐れ縁の友人


 

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