第27話『嵐も吹けば風も吹く』

滅鬼の刃 エッセーラノベ    


27『嵐も吹けば風も吹く』 





 鼻歌を口ずさむってことありますか?



 週に五度くらいは散歩に出ます。たいてい自転車で、10~20キロ、時間にして1~2時間。時には30キロを3時間くらいかけて走ります。


 春や秋、お天気がいいと、つい鼻歌が口を突いて出てきます。


 レパートリーに脈絡はありません。フォークソング、アニソン、オールディーズ、ポップス、どうかすると、インターナショナルの次に轟沈を口ずさんでいることもあります。


 人生のあちこちで聞いたり憶えたりした歌が、脈絡があったり無かったり、浮かんでは口から出てきます。


 十八番というか、よく出てくる歌があります。数えたことはありませんが、十八曲以上あることは確かです(笑)


 そんな十八番の中に『ここに幸あり』があります。




 嵐も吹けば~風も吹く 女の道よ何故険し~ キミを頼り~に~ わたしは~生きる~♪




 ジェンダーフリーの方々からはNGで、張り倒されかねない歌詞なのですが、春や秋の晴れ渡った空の下を走っていると、似つかわしい歌です。わたしの中では『青い山脈』と双璧の人生の応援歌であります。


 鼻歌というのは、歌っている本人は気持ちのいいものです。ですが出くわした人には、いささかはた迷惑なものですから、人が多いところ、踏切や横断歩道では中断します。


 たまたま周囲に人影のない公園横の横断歩道で、歌いきりが悪いので「ここに幸あ~り、あ~おいそ~ら~♪」と歌いきってしまったことがあります。


「いやあ、テレビ結婚式やねえ(^0^)」


 わたしより5~6歳は年上と思われるオバアサンが斜め後ろから声を掛けてこられました。


 不意打ちでもありましたので、アハハと不得要領に愛想笑いするしかありませんでした。




 横断歩道を渡って思い出しました。たぶん花王石鹸かなにかがスポンサーであったと思うのですが、テレビで結婚式の中継をやる番組がありました。


 幼稚園か小学校の低学年のころですから、昭和の三十年代でしょう。


 徳川無声さんの司会だったと思います。


 毎週見ていたわけではありませんが、なんだかドキドキして神妙に見ていた記憶があります。


 たいてい横で、お袋が内職の針仕事をやっています。


 共に大正十四年生まれの親父とお袋は、終戦間もない時に所帯を持ちましたので結婚式をあげていません。


 子ども心に、ちょっとまずいかなあ……と思いながらも、その緊張感と晴れがましさが刺激的で、チャンネルを変えられませんでした。


 調べると、最初の頃は有名人の結婚式などをやっていたらしいのですが、わたしの記憶では一般募集で当選した三組ほどのカップルが同時に式を挙げておられたような記憶があります。


 中には、すでに結婚していて、わけあって式を挙げられなかったご夫婦なども出ておられたような記憶があります。


 戦争で瀕死の重傷を負った同士で結ばれたカップルがおられました。


 徳川無声さんが、しみじみとお二人の越し方を述べられるのですが、参列している親族知人の方々もことごとくが戦争体験者であります。あちこちから忍び泣きや嗚咽が聞こえてきます。


 シンとしていると思ったら、お袋が裁縫の手を停め、メガネを外して割烹着の裾で目を押えていました。


 子ども心に、このつぎは別のチャンネルにしようと思いました。


 もう少し書こうとおもったのですが、栞の「ただいま~」が聞こえてきましたので、またいずれかの機会に。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る