第5話 (空くんはいつだってドジっ子だね☆)

 入学式が終わると新入生は割り振られた教室に移動し、自己紹介が始まった。

 俺の教室は一組。席は六列あるうちの三列目。一番後ろの席だから教室の雰囲気がよく見える。

 と言っても、初日で緊張しているのか、随分と静かである。それに加えプリントもなにも貼られていない新鮮な教室だ。悪く言えば殺風景と言うべきか? そんな教室に静かなクラスメイト。入学したての独特な雰囲気がさらに緊張感を煽る。

 隣の席、……つまり四列目の一番後ろの席を見ると、空席だった。配られた座席図のプリントを取り出し、隣の席の人の名前を見る。


『星川ゆず』


 ホシカワユズ……さんか。

 せっかくの入学式だというのに、風邪でも引いたのだろうか。まさか、不登校……はあまり考えたくないな……。まだ初日だし。



 今日は自己紹介をして終わりらしい。まあ入学して初日から授業っていうのはないよな。

 俺は自分の番が回ってくると、なるべく静かに立ち、一言だけ言った。


「日向空です。趣味はありません。以上です」


(「日向空です。趣味はツッコミ。お友達が作りたいです。ぜひよろしくお願いします」俺はそう言いたいが、とっても恥ずかしくて言えない。ああ、だから俺は友達ができないんだ)

 ああそうだ。俺はとっても恥ずかしがり屋で――いや誰が友達ができないだよ! 俺は意図して友達を作らないだけだ! 勝手に人の自己紹介を改ざんするな。ついでに思考まで改ざんすんな。


(あれ。趣味にはツッコまないんだ。さすが日向ツッコミくん)


 うるせえツッコむことが多すぎてツッコみ忘れたんだ!


「そらくん、自己紹介終わったんなら座らないとっ」


 ハナの言葉で我に返る。まったく。ウミ姉は変なところでちょっかいを出してくる。


「ああ、そうだったな。悪いハナ……」


 俺はそこで本当に我に返った。

 クラスメイト全員が、俺を見ている。奇妙なものを見るように。

 そりゃそうだ。自己紹介が終わったにも関わらず、立ったままで、いきなり独り言を言いだしたようなものだから。

 ハナとは話さないと登校する前から決めていたのに……!


「ごめんねそらくんっ! つい……」


(もう。空くん、ハナちゃんのせいにしちゃだめよ)

 最初からハナのせいだとは思ってねえよ! むしろウミ姉のせいだからな? いやウミ姉に反応した俺のせいか。

 と、とりあえず座ろう。


「じゃ、じゃあ、次の人……」


 担任が目を泳がせながら自己紹介を進める。

 俺はその後の自己紹介を聞く余裕すらなかった。

 まあ、気味悪がられたのなら……俺に寄ってくる奴もいなくなるだろうし、結果的によかったのかもな。

(空くん、本当に、それでいいの?)

 ああ、いい。俺が自分で決めたことだから。

 ハナやウミ姉が消えたら嫌だ。それはずっと前から言ってるだろ。

(でも、この歳になっても存在できてるんだから、友達の一人や二人作っても私たちは消えないと思うな。現実の友達がいる空くんみたいな人も、世の中にはいるよ)

 そりゃあそうだろう。世の中にはイマフレ(イマジナリーフレンド)のことを隠しながら友達付き合いをしている人だって多くいるはずだ。隠していない人だっているだろう。

 それでも俺は、怖いんだよ。

 ハナたちと話していると、今みたいに変な奴扱いされるだろ。

 そういう視線、何回も浴びてきたら、ハナたちが見えない奴らと関わるのが嫌になる。そんな俺の気持ちもわかるだろ。


 俺は、お前らがいればそれで十分、それで十分なんだよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る