6話 先輩、まだコクってないんスか?

 それから、二人で半分のケーキをちみちみ食べる。 流石に琴音は残り全部食べきるのは厳しいらしく手伝ってあげることにした。


「そだ、センパイに聞きたいことあるっス」


「なに?」


「やっぱり彼女いるんです?」どきり、とする。


「……彼女いたらここには来ないよ」


「そうっすよね。センパイ真面目ですもんね。……前聞いたときなんですぐ答えなかったんだろって引っかかってて」琴音は少し考え込む。


「……あ! もしかして好きな人いるんスか?」図星な質問にびくっ、と身体をこわばらせてしまう。


「ふ〜ん、あたりなんだ〜」にやり、と琴音は悪そうな笑顔を見せる。


「え、誰なんです?」ぐいぐい、と身体と近づけて聞いてくる。


「……えっと」前みたいに言葉に詰まる。答えてもいいけれど、それでまたからかわれそうな気がする。


「もしかして、わたしとか?」彼女は斜め上の答えをする。


「は?」


「いやぁ、私かわいいからなぁ〜。最近モテて仕方ないんすよね〜!」ドヤる。


 僕は「んなわけ」ととっさに言えなかった。前回、バイトの休憩所の時だったら言えた。でも今日を通じたせいもあって琴音を少し意識してしまっていた。


「あの、否定しないんス……?」彼女は冗談で言ったつもりだったらしく、困惑した様子で尋ねてくる。 ほんの少し顔が赤い。


「同級生」僕は答える。


「え?」


「同じクラスにいるんだ、気になってる人」


「ああそうなんスね……」と若干琴音の声のトーンがおち、うつむく。しかしすぐにまにまと笑顔になり「で、告白したんスか?」と聞いてきた。


「いや、まだだよ」


「そっすか……いつするんす?」何故かちょっとため息をつく。


「クリスマスまでにしたかったけれども機会がね……」


「それはもう遅いっスね……。まま、機会は作るもんっスよセンパイ! 私みたいに?」


「え? 私みたい?」


「あいやいやこっちの話っす!」少し慌てた様に言う。


「うーん、機会かぁ……」


「遊びに誘える仲とかなんスか?」


「うん。ちょいちょいね。」


「ふむ……そうだ! 初詣とか一緒に行ってみたらどうです?」


「初詣かぁ、その手があったか」


「んでそのまま告白しちゃったり?」


「え、いやいや」


「いやー正直ちゃっちゃと告白しちゃったほうがいいかなって思うッスよ。告白っていうか想いを伝えるてきな」


「それは実質告白じゃあ」


「ま、そうっすね。ともかく相手にセンパイが好意を寄せてる事に気づかせないと」


「嫌われたりしないかな」


「そりゃわかんないっすよ。そこで嫌われたりするならいくら待ってもセンパイの恋は実らないッスかねぇ。私ならうれし……げふんげふん」急に咳払いをする。


「でも初詣に誘ってきてくれる時点で恋愛はともかく、センパイの事嫌いじゃないと思いますけどね」


「そんなもんかなぁ」


「ほら、今日のセンパイっすよ。私のこと嫌いじゃないっしょ? だから付き合ってくれたッスよね?」


「そうだねことねさ……ことねのことは好きだよ」琴音は小憎たらしいところはあるけれど、気軽に話しやすいし、人として好きなタイプだった。


 急にうつむいた。顔がまた赤くなっている。

「センパイ、急に来るんスね……」


「え、なにが……?」


「いやいや、気づいてないならいいんス……ともかく初詣誘いましょ! そして告白!」


「うん、やってみるよ。ありがとう」自分でもしなきゃいけないと思っていた。琴音に背中を押される形ではあるけれど、今がそういう時なのだろう。


「応援してますよ!」ぎゅ、と僕の手を握り笑顔で言う。やっぱり可愛いな、と思ってしまう。もし、好きな人がいなければ、恋していたかもしれない。



「じゃ、告白の練習してみます?」


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