その日

・・・・・・


 愛知県警蒲郡署

 取り調べ室



「あの人が、娘に手を出していたことは知っておりました」


「それは、いつ頃からなんでしょうか」


「一年程前からなんとなく、娘の態度が変わって。……あなたも女だから解るでしょ」


「むっ…………」


「あの人……主人も、わたしから遠ざかるようになってしまって、最近では一緒にいても会話もなくて」


「それで、前のご主人に相談したんですね」


「いいえ違います、相談したわけでは。前の主人が、成長した娘に会いたいと言ってきたんです」


「失礼ですが、離婚したのはどれくらい前なんですか」


「娘が5歳の頃ですから十二年くらいになります。前の主人は事業に失敗し、ヤミ金に手を出して、離婚後に自己破産をしました。その後は全く音信不通で、三ヶ月前にひょっこり家に現れて。ここではなんだからと、彼の車の中で話をしました」


「その時に、娘さんとご主人の関係を話されたんですか」


「はい、そうです。相談と言うよりも、会わせて欲しいとしつこいものですから、わたしもつい苛立ってしまって……」


「その話を聞いて、前のご主人はどんな様子でしたか」


「無言でした。ただ下を向いて、両手で握り拳をつくって、震えながらドンドンと車のハンドルを叩いていて……。わたし、恐くなってしまって」


「アパートの住民の話から、部屋に盗聴器を仕掛けたのはどうも、前のご主人のようです」


「んっ…………」


「それと、言いにくいお話なんですが。……娘さんは殺されたのではないようです」


「えっ、それはどういうことでしょうか……」


「事故です。検視の結果、性交の最中に、なんと言うか……行き過ぎた行為によるものだと」


「そっ……そんなぁ…………」



「主任失礼します、犯人の車が見つかりました。現在蒲郡方面から三河湾スカイラインに向って逃亡中。白バイが追っています。白バイからの報告では、もう一台普通車が、逃亡車の後ろを追っている模様。警察の車両ではありません」


「承知した、こちらもすぐ向かう、幸田町方面から入り挟み撃ちにする。至急応援車両を回すように」


「了解しました。尚、もう一台の車両は白いワゴン車だそうです」


「えっ、前の主人と、同じ車だわ……」


「……とにかく急げ。国坂峠で挟み撃ちだ」


・・・・・・

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