第26話 「オレ」って自称する(言い張ってる)娘ちゃんについて
ふとした事で、イザナギが「捨て猫」「捨て犬」感覚で拾ってきてしまった、一見するとオーガのガキ……と見られたヤツが、この期間中(「夏休みキャンペーン」期間中)にオレ達が討伐しようとしていた『デスペラード』の一体『スルト』だったとは、神のみぞ知るだったことだろう。
しかも間の悪い事と言ったら、どうやら『スルト』はオレ達と妙な仲間意識を芽生えさせたものとみえ、かつて自分を追った事のある『ヤハウェ』と『リッチー』に対し並ならぬ怨みを抱いているようだったのだ。
うーーーん、とは言え、あのおこばあちゃまなら、まだ話しが通じ合いそうなものなのだが、あの人(マグダラエル)なあ……
{*どうやらアベルも精一杯気を遣いすぎてしまっているようである}
当ったり前だるぉうが! 何と言うかあの人まぢ苦手なんだよなあ―――
いやまあ、そっちの事も大事なんだがーーー目下の処重要なのは、寧ろ……
「ム・キー! あんたも一度言ってみなさいよ!私の事……私の事を頭おかしいってよくも言っちゃってくれたわねえ??」
「だってそうだろうがよ、闘う事こそがオレ達魔族の本分なのに、なのに『平和な世の中』だあ? あんたよく生きていられんなあ……オレだったら恥ずかしすぎて当の前に自害してるわ!!」
「ああ~ら、そう言うあんたこそバカなの?ねえバカなのぉ~~? 大体「自殺」「自害」するなんて事はご法度中のご法度だったはずよ!それを恥ずかしさの余りにしちゃうだなんて……ああ可笑しい!可笑しすぎて笑い死にしちゃいそうだ・わ!!」
「てんめぇぇ~~~オレの事をバカにしやがったな!? だったら、オレを無実の罪に貶めてくれた奴らへの、復讐の前哨戦としてお前を叩き潰す!!」
「ふふん―――やってご覧なさいな。 そのゴブリン並みに小さな体躯で何ができると言うの?」
「言ったなあ?後で後悔したって泣いても許しちゃやんねえぞ……このオレはなあ、
シェラフィーヤのヤツが
しかも先程イザナミが言っていたように、自身に内包させている氣の解放を
「ふんっ―――!なにをうじうじうじうじ昔の事を引き摺ってんのよ!! そんなの内に溜め込むあんたが悪いんじゃないの!?
そぉれよりも私をご覧なさいな…私もあなたと同じで魔王としての地位を追われた、だけど私はめげる事はなく私の仲間と言うのを探したの。 ねえ『スルト』……あなたは
「うう…うるせえ!頭のおかしい事を言うあんたにだけは言われたかないわ!! ただ……残念だぜ―――あんたとなら、もしかしたら上手くやってけそうだと、思ったのになあ……」
うーーーーーん……一体何を見せられているんだろうなあ?オレ達……
これって割とシリアスなシーンじゃない? その昔、その権能の危険性も相俟って認定されてしまった古代の魔王達……『デスペラード』その一体と、その“元”はなんたらだと言う、うちのポンコツめが何やら言い合っているみたいなのだが、これが端から見たら「子供の喧嘩」の様に見えてしまっているのはオレだけではないはずだ。
それに―――以前討伐したサヴァティーニは、その名(『デスペラード』の一体としての)に恥じない強敵だった……の、だが。
うちのポンコツがチョケてるお蔭でシリアスな展開がシリアスでなくなってしまっている―――ははあ~ん、さては『スルト』はオーガだけにその知性はかなり低いようだ。 それに……なんだ?あいつ―――同レベルのヤツを見つけて、なんともまあ~楽しそうな事。 と言うより、あいつ気付いていないのか?気付いちゃいないんだろうなあーーーーあいつの一言一言が、今や「ブーメラン」となって“グサグサ”とあいつに突き立っているって事を。
ホントに……なんて言うか―――その口、塞げよ。 塞いでくれる……奴なんていないだろうしなあーーーて事は、オレが塞がなくちゃなんないわけ?
ヤだなあーーー勘弁してもらいたいよなあーーーだって今のあいつ、オレが
「ふ、ふんーーーーだけどね、実態が判った今となっちゃ怖いモノなんてないのよ!! さあーーーあなた達、この私に従いなさい?! 〖“水”と“大気”の精霊たちよ、織り交ざり、調和し、私の下に集いなさい〗―――」
「な―――なに? あんたその権能……あのサヴァティーニの『ヒュドゥール』が使えるのか?」
「ふふ、お生憎様―――そのサヴァティーニは既に討伐済みよ。 そして彼女の権能がどうなったかは、私を見たら判る事―――〖クーリ・マィテイ〗!」
よく考えてみれば、『スルト』は炎の属性しか持っていない―――が、シェラフィーヤは以前の討伐戦に際し、サヴァティーニの権能である『ヒュドゥール』をも修得したのだ。
つまりだ、これは属性の一つ持ちと二つ持ちの差が顕著に表れた例―――と言って差し支えないだろう。 しかも今のシェラフィーヤはサヴァティーニの権能を取り込んでしまった事により、『風化』の権能を活性化させてしまっているのだ。
そう―――「新たに獲得した」ではなく、「活性化」……元々こいつには、オレにも授与してくれたように『
うぅむう……「器用貧乏」と言っていいのか、「宝の持ち腐れ」と言ってやるべきか……考え様によっては、不憫だなあ……こいつ。
* * * * * * * * * * *
それはそれとして、最早勝負はついてしまった。
まあ考えれば当然だとは思うのだが……炎って言うのは風や水に弱いところがある。 それを風と水の両方を持ち合わせるヤツにどうしてか敵うだろうか。
「うっ……ぐくくっ―――く、屈辱だっっ! こんな、頭のおかしい事を言う奴に負かされる……なんてッッ!」
「やったぁ~☆ おねえちゃんすこいねっ!☆」
「ウ―――ウン……アリガトウネ、ラニーニャチャン…」
「シェラフィーヤったら、喜びの余りにカタコトになってますねー」(皮肉)
「とは言え、今回私達としては何もしていませんしね。」
「ああ…シェラフィーヤが『スルト』を弱体化させたところを、偶々遊びに来たラニーニャが止めを刺してしまった様なものだからなぁ…。」
「それにしても、懐いてくるアラクネに怯えてしまうなんて……シェラフィーヤ、あなたのその苦手意識を克服させるためには、お前のママンであるわたくしも心を鬼にしなくてはなりません。 本来ならこう言う事をしたくはなかったのですが―――今晩から一品蜘蛛料理を付け合せて上げるのですわぁあ!」
「イヤぁぁ゛あ゛あ゛っ! や、止めて―――止めて頂戴クローディアさんん゛! 種属的嫌悪がある私にこれ以上の心の傷を増やすの止めてええ~!!」
―――あれ?ひょっとしてコレって……『デスペラード』討伐の完了? おいおい……ちょっと待ってくれ?なにこの虚脱感。 何のために残り少ない日数(夏休み)削って準備に費やしたと思っているんだぁあ? 認めん―――オレは認めんぞお~~~!!?
……と、一人息巻いていた、そんな若い時代がオレにもありました。
それにまあ、何事にも準備は必要―――今必要でなくなっても、この先この準備が無駄にならなくなるって事が、いつの日にか思うようになってくるだろう。
と、言う事もありまして、オレ達はその疲れた身体を癒す為にと、ひとっ風呂浴びる事にした。(この際「一体どこが疲れたんだ」と言うのはナシでな)
しかしまあ何と言うか、入浴中が
端から見たら『ナニソレ、ウラヤマハーレムのくせに…』と言うご意見もあるだろう。 だけどな、うちの女子ってなんかこう“ガツガツ”してんだよ……なあ~~。
オレもさあーーー初めの内は喜んだもんよ。 だってだよ?あの姉妹はオレ達が住んでいる地域では誰しもが知る「名家」出身のお嬢姉妹だし、そう言ったステータスの持ち主に言い寄られて悪い気なんてしない―――と言うのは、健全たる日本男児なら誰しもが思う事だろう。
なもんだから、オレも実際は好い気には、なっていた―――なっていたのだが……まあお察しの通り、「肉食系」?というよりは「暴食系」に畏れをなしちゃったのです。
しかも、それに加えて“嫁”のヤツだもんなあ~~~。 それに我が妹も本格参戦してきやがるし―――おまけにあのポンコツだよ。
「ハーレム系」ってさあ、その言葉の印象以上に、なりたくねえわあ~~~最近では気を遣いすぎて胃がキリキリ痛みやがるし……
しかし―――で、ある。
先程も言ったように、オレ達の一党の中で実質「男」と言えばこのオレ一人しかいない。 そして今は入浴ターイム。 広い大浴場をオレが独占している―――ってロケーションである。
そしてこう思った事だろう……『あれ?他の団員達(ぢょしども)は?』 うん、明確に答えてあげやう―――オレは入浴中とか就寝中のリラーックスターイムだけは邪魔されたくはないのだ。
だってなあ?そうだろう?? その時以外ではこのオレを巡ってひと悶着起こす奴らの所為で(今ウラヤマと思った奴出て来いヤァ!!)―――ストレスマッハなオレの内臓を
そう、今オレは、意図的にあいつらと時間をずらして入浴している――――はず…………だった、のだ・が??
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
参っちまったよなあ……
それよりこれからどうしようか―――永い間封印されてたから、この際に解放されたことには非常に感謝はしている……それでようやく、オレに罪を
けれど、理由や事の経緯がどうあれ、オレは敗けちまった。 しかもオレですら敵わなかった『竜吉公主』のサヴァティーニの権能を取り込んでしまっていた、あの女エルフに。
ここは一つ気を取り直して、風呂の中で考えを巡らせるか―――…
しかしここでオレは、最大の警戒をしていなくてはならなかった。 今回オレを倒してくれた女エルフの仲間どもとは、どう言った処で判り合いたくない、判り合えない、判り合えるはずもない。
だからオレ一人で入浴をする為にと、時間をずらしたと言うのに………そこでオレは、オレ自身の浅はかさを思い知るのだった。
いや、だってそうだろう? あいつらの仲間なら一緒に―――って思って何が悪い? そ、それに、オオオオオレにはひ、秘密があぁぁ~~~っ!!
「えっ……? ちょっと待て―――なんであんたがこんなところにいるぅ?」
「ぁあん?誰だお前―――つうか、なんでオレ達一党拠点内の大浴場なんかにい……るぅ?」
あれ?こいつどっかで見た顔だなあ―――それにオレと同じ一人称“オレ”を使いこなしやがる……なんてえーーーーなんてぇええ??
いや待て待て待て冷静なれ、オ・レ! ついここ最近“オレ”を使いこなす奴の事を、オレは知っている……だが―――確かそいつは「男」だったはずだ!!
なのに……なのになんで―――
「なあおい……落ち着いて、オレの質問だけに答えてくれ……もしかして『スルト』―――って、“ちゃん《おにゃのこ》”なの?」
その夜、この世界に響き渡りそうな大絶叫が、オレ達一党の拠点内にある大浴場からしたものでした。
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