第13話 “水源《キオク》”の在り処

「それ、本当ですか??」

「疑いたい処も判る。 だが私はそう名乗った者により救われたのだ。」

「『竜吉公主』……魔王サバティーニの通り名。」

「けれどおかしな話よね…今回私達が討伐しなければならないハズの「敵」が、イザナギさんを救っただなんて。」


「(……)こう言う事は考えられないかしら、「『竜吉公主』は2体いる」。」

「うっへ、面倒臭い極まりない事だなあ?姉さま。」


この会話は、私が帯びていた任を完遂させ、「拠点の家ホーム」へと戻った時に、あの現場であったありのままを話した後でのものだ。

そう―――この私の窮地を救い、“水”の術で雑魚共を駆逐した『竜吉公主』と名乗る者の事を。

それはまた違和でしかなかった、この会話中でもあったように、その『竜吉公主』と名乗った者は今回私達が討伐たおさんとしている『デスペラード』でもあったからだ。

だがその者は、私を倒すどころか寧ろ救ってくれた……だから、姉さまが言われるように同じ名を持つ「敵」が2体いるのだろうか。


       * * * * * * * * * * *

な―――なんだか大変な事になっちゃったみたいね。 けどさ、私の目の前で私の事を拾ってくれた人の事を見捨てる訳にはいかないでしょう?

だから……「緊急事態」的な?感じでやっちゃったんだけど―――…勢い余って乗ってしまうものではなかったわぁ~~~(反省中)


それにしても、偶然(?)て言うのは恐ろしいものよねぇ~。 まさか私がいた世界以外の世界でも『竜吉公主』がいるだなんて……。

しかも、しかもよ?なんだかここの世界の『竜吉公主』って悪者扱いじゃない?? 傷付くなあ~私としては……

まあ…………なるべくこれからは大人しくしていよう。 その上で元の世界に戻れる方法を模索しなくては。


         ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


それからと言うものは、オレ達は『竜吉公主』を討伐たおす為に様々な情報を集めた。

実際にそいつの意を受け騒ぎを起こす者の討伐や、現実世界でのネットの検索により収集できるものはできるだけ取り入れるようにした。

中でも、今回はシェラフィーヤのヤツが自分の国に伝わる古き文献を調べるなどして、どう言った攻撃が得意か、どう言った防御でオレ達からの攻撃を防ぎ切るのか、またどう言ったものが弱点なのか……有益な情報は一通り揃えることが出来た。

「なーるほどなあ。 前評判通り“水”を操る術なんかに関してはエゲつねえみたいだ。」

「ええ、それに防御面に関しても、水の膜を幾重にも巡らせてこちらからの攻撃を緩衝・緩和させるみたいです。」

「シェラフィーヤ様の“風”の権能で吹き飛ばしてしまえば……」

「けれどそれでは何の解決にもならないわ。 ここの記述を良く視て、『サバティーニは水に実態を変える事もある』とあるけど、おそらくこの『水に実態を変え』ている間は、性質は水と同じよ。」

「つまり……飛散をさせてもすぐに一つにまとまったりできるし、飛散させた部分からも実体化されてしまえば―――と、言う事ですか。」

「それはまた面倒な―――と言いたい処だが。 それもまた善し……それがしの求める武の糧になれば―――と思えばこそ……」

「ま、そう言うの(熱血)はいいから、出来たらちゃっちゃと済ませようぜぇ。」


―――とまあ、こういう流れで決まったみたいなのだが……なんだかイザナギさん、報われないわねえ。

自身の成長の為に息巻いているのはいいんだけれど、もう一人の男性からかるぅーくスルーされてるしぃ…それに、お仲間の女性4人も声もかけないなんて―――


「イザナギ、どま。」

「おお、“ちび”殿かかたじけない。」


結局の処、この子供の姿をしている私が「もう一人の『竜吉公主』」と言うわけにも行かず、その場の流れで付けられた「“ちび”」というのが私の名称の様なものになっている。

少々気にはなるけれども、背に腹は代えられない―――と言った処か…

それに、となったらこの彼らと一緒にこちらの世界での“私”(『竜吉公主』)と対峙し合わなくてはならなくなるだろう。

それは“その時”となったらの話しだから、そうなるまで私は彼らの闘い方と言うものを見収め、また見極めなくてはならない。


       ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


まず最初に―――私の世界にもいる「クローディア」……彼女はどうやら私の知っている「クローディア」と同じく、回復や支援を専門としている『聖職者』みたいだが、私が知っているクローディアと違っていたことがたった一つ……それは―――


「クス。   クス。 クス。 いくら『デスペラード』からの意を受けたとしても、このわたくしには無駄、無駄、無駄ぁぁあああ!   『黄金の槌を撃ち振るう雷神』」


えーーーーーっとぉ?彼女回復職なのよねえ?? だと言うのに5mはあろうかと言うアリゲータを、やっつけちゃったわよ???

しかしどうやらそれが彼女の特筆すべき点だったみたいで、とは言え考えさせられる事もあった。

確かに「詠唱職キャスター」や「回復職ヒーラー」は、攻撃力や防御力が無い分、後衛に収まって戦闘に加わることが多い、けれどこのクローディアの様に自分の手で敵を捻じ伏せてしまうだけの武力チカラがあれば、前線もさらに押し上げられる……これは帰ったなら一考すべき点かもしれないわね。


      * * * * * * * * * * *

そして次に伺ったのは、やはり私達の世界にいた「ノエル」……しかもこちらの彼女も“忍”として生計を立てているようで、情報の収集や戦場での攪乱などは、ほぼ似たような事をしていた。

ただ特筆すべき点が、どうやらノエルは、“影”や“闇”と言った得体の知れないモノに順応する特技を有している様なのだ。


「はあ~~やれやれ、「シュマゴラス」や「シェイブシフター」ってヤツらはなぁーんでこんなにも面倒臭ぇんでしょう…………(ジロリン☆)…………ねえ~?」


おっっ……と、危ない、危ない―――流石に情報を収集する事に関しては一流の腕前をしているみたいね。 私が放った水の気配を察知して、にらむなんて……

けれど、そう言った任を帯びた者のお蔭により、敵の情報が露わとなって来る。 最初は未明だった実態も、その事によって秘密のヴェールと言うものが一枚一枚剥がされ、不気味かつ手強いと思っていた敵の存在が、そうではなくなってしまう……これでどうやら安泰のようね。


       * * * * * * * * * * *

そして次は、その両の目を黒布地の帯(眼帯)で塞いだ異色の女剣士―――「イザナミ」……

しかし遠目で見ているとしても、常に「誰かが見ている」事を意識したかのような所作―――恐らく彼女がこの組では最も手強き者と言った感じね。


「(…フッ)ここ最近は、団員達の成長ぶり著しく、しかしそれはまた私の出る幕もない―――と、言った処でしょうか。   『零式五十二型』


ふふふふふ、素晴らしい斬れ味―――こ度の「討伐戦」に合わせるようにおろしましたが……この「越後守包貞」、一体いくつもの血を吸わせてもらえるのでしょうね。」


え゛~~~私の世界にもああ言った感じの人いたけど、さすがにあそこまでではないわあ~~~。

それに……あの説明臭いセリフ、絶対誰か(私よね?)いると判ってて言っている様な感じ―――…ないわぁ~~ああいう人と仲良くなるのって、ないわあ~~。


       * * * * * * * * * * *

そして次には私を拾ってくれた男性、しかも彼は「剣士」ではなく「武辺者もののふ」のようだ。 つまり「傭兵」とは違い職業軍人みたいなのだ。

それに聞いたところによると、この「イザナギ」と「イザナミ」とは肉親であるらしい。 そう言う処を注意深く見ていると、どことなく“型”などがよく似ている。


「姉さまから流派の許可を頂いた折に給わった「備前長船祐定」、それがしが振るっておった「ジグムンド」より軽めではあるが……   『烈風』『雷電』『飛燕』


―――ふっ…問題ないな。 それどころか早う戦場で振るいたいものだ。 それに、それがしが求めうる『好い戦』―――なまじ楽に勝てる戦など、その様なものは最早戦ではない! ああ…故にそれがしは渇望する! 天よ、それがし艱難七苦かんなんしちくを与えたまえ!! このそれがしを追い込むだけの強者つわものそれがしの下に!!」


ええ~~~っとぉ……なんて言ってあげればいいのかしら? バカ?フール?スチューピッド?? 「戦」の事しかあたまにないなんてえ~~~

そんな男に救われた私ってなんなのぉ?! もおぉぉ…ちょっとでも「イイ」と思っちゃった私の感情を返しなさいよおっ!


「む゛ーーーッ」(ポコポコ)


「な?なんなのだ“ちび”殿。」


「む゛ーーーーーーーっ!!」(ポコポコポコ)


       * * * * * * * * * * *

全くぅ……あんな対決脳筋に頼ろうとしていた私がどうかしてたわ。 まあそれはともかくよ、残すはこの人達を纏める「アベル」って男と、ちょっとおバカでおまぬけで、それでどことなぁーく私に良く似ている「シェラフィーヤ」って女と……


「ねぇねぇ、アベル、アベルぅ~~♡」

「だああっ!鬱陶しい!! いい加減離れろッ―――!」


「ええ~~っ、でもアベルったら昔は私の事『シェラフィーヤ様、シェラフィーヤ様』って言ってくれてたくせにぃ~。」

「あれは、一時いっときの気の迷いだったわ。」


「ぶわあああん! なんでそんな事言うのお! バカバカバカぁ~!」

「真性のバカに言われる筋合いはねえぞ! 全くお前と来たら……」(くどくど)


なんだか…………他人を見ている様な気がしないわね。 私も、まあ……こう言っちゃなんだけど、惚れちゃってる男に惚気のろけてるところを、私の戦友から「白ぉ~く生温かい目(お熱い事で、さてさて邪魔者は退散すると致しますかな)」で見られちゃっている時があるって言うか……。 それに、私達が庇護している眷属の子達も、「見て見ぬふり(はいはい、どうぞお幸せに~)」してるというか……。

私と“あいつ”とのやり取りって、他人から見たらこんなにも恥ずかしくなっちゃうものなのね。 今後は気を付けるとするわ。


あっつっ―――?? い…今ので随分思い出せた? 私が「惚れている男」に、私の「戦友」、そして私(達)が庇護する「眷属の子達」……。

つまり私は、私の世界では責任のある立場だった? それに…以前から感じる私に備わっている権限チカラ―――どうやら、彼らとの協同の闘争で思い出せそうね。


      ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


そして始まる『デスペラード討伐戦』。


しかしそこでオレ達は、信じ難い光景に出会ったのだ。



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