「あれは、なに?」と小唄は言った。

「あれは彗星だよ。白色の彗星さ」と古代魚は言った。

 ……白色の彗星。

 小唄はその言葉を頭の中で繰り返した。その奇妙な言葉は今、初めて聞く言葉のはずなのに、なぜかどこかで聞いたことのある言葉のような、そんな不思議な印象を持って、小唄の頭の中に吸収された。

「僕たちはあそこに行くの?」と小唄は古代魚に聞いた。「いや、違う」と古代魚は言った。「君は白色の彗星にはいかない。あの彗星についていくのは僕一人だけさ」と言って古代魚は笑った。「君、一人だけ?」と小唄は言った。「そう、僕一人だけ」と古代魚は答えた。

 それから古代魚は彗星の飛んでいる方向に向かってゆっくりと移動を始めた。だから小唄も古代魚の横を歩くようにして移動を始めた。古代魚は見えない小川の中を優雅に泳ぎながら、その顔だけを水面の上に出していた。それはきっと僕と会話をするためだろうと小唄は思った。「ねえ、古代魚」と小唄は言った。「なんだい?」と古代魚は答えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る