「あの、……えっと、魚さん」と小唄は言った。「古代魚でいいよ」と古代魚は(まるで小唄の考えていたことが最初から、わかっていたように)言った。小唄は少し迷ってから「あの、古代魚くん」と小唄は言った。「古代魚」と古代魚は言った。

 小唄は仕方なく「……古代魚」といい直した。「なんだい?」と古代魚は言った。

「ここはどこなの?」と小唄は言った。すると古代魚は声を立てて笑った。古代魚に笑われて、小唄は少しだけ顔を赤くした。

「きみはここがどこだか知らないまま、この場所にやってきたのかい?」と古代魚は言った。小唄はそうだと古代魚に答えた。「ふーん。きみはとても変わっているね」と古代魚は言った。そんなことを古代魚に言われて、小唄はむっとして、古代魚のことが少しだけ嫌いになった。

 小唄は顔を上げると、くるりとその場で体の向きを変えて、古代魚のいる場所から反対の方向に歩き出した。「あ、もしかして怒ったのかい?」と古代魚は言った。小唄は古代魚のことを無視したまま歩き続けた。

 しかし、歩いても歩いてもなにもなかった。小唄はだんだんと不安になった。そこでふと立ち止まって、ちらっと後ろを振り向くと、もう先ほどの場所に古代魚の姿はなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る