福はそのまま校庭の上を歩いて移動して、中学校の校舎の美術部が部室としても使っている美術室のところまでやってきた。

 福は白いカーテンの閉じている美術室の中に校舎の中に(一応、靴だけ脱いで)入って、入り口のドアを開けて入った。

 午前中の美術室には生徒の姿はない。しん、と静まっている。

 薄暗い美術室の中にはたくさんの動物たちの姿をした、彫りかけの木彫りの置物が置いてあった。

 それらは全部、福の同級生である数人の美術部員たちの作った卒業制作の作品である。

 たくさんの木彫りの動物たちがいる(ゴリラとか、ライオンとか、サイとか、ワニとかだ)美術室の中はまるで遠い異国のジャングルの中のようだった。

 そんな動物たちの中にいる一体の木彫りの鳥の前に福は移動する。

 その小さな木彫りの鳥は、……福と同じ三年一組の教室にいる小牧駆くんの作品だった。(そのことを福はちゃんと知っていた)

 福はその木彫りの鳥をそっと触った。

 それから、ちょうど薄暗くて隠れるにはいい場所だから、福はこのままこの美術室の中で少し居眠りをすることにした。(眠るのにもちょうどよかった)

「御休みなさい」

 誰にいうでもなく(あえて言えば、木彫りの鳥に向かってだけど……)そう言ってから、福は制服のまま、ごろんと床の上に転がって眠りについた。

 疲れていたわけではないのだけど、福はそのまますぐに、深い眠りの中にたった一人で落ちていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る