第157話 エリウッド

 ティアを新たな仲間に加え、俺達は西門から外のフィールドへと向かう。


 しばらくセルグ村がある北西方向に歩いていて気づいたことがある。


「メルビア方面に行く人が多いわね」

「そうですね」


 ラナさんとルーナもこの異常に感づいたようだ。


「ティア王女⋯⋯普段から人通りはこのくらいあるのですか?」


 しかし返事はない。

 ん? 聞こえてないのかな?


「ティア王女?」


 先程と同じで聞こえていないのか、ティアは振り向くことすらしない。


「ティア?」

「何? お兄ちゃん?」


 あれ? ちゃんと聞こえているじゃないか。なぜルーナの声には反応しない。


「ラナさん、ルーナさん⋯⋯私はお2人の仲間、ティアリーズです。王女ではありませんから、そこの所を間違えないで下さい」


 なるほど⋯⋯昨日もティアはマーサちゃんに王女と呼ばないでくれと言っていた。あまり特別扱いされるのが嫌なのかな。


「で、ですが一国の王女様を敬称を付けずにお呼びするなど⋯⋯」

「ふふ⋯⋯私はオッケーよ。ティアリーズ⋯⋯これでいいのかしら」


 ルーナは本当にそう呼んでいいのか迷い、ラナさんは不敵な笑みを浮かべ、ティアの願い通りにする。


「前から思っていたけど、私⋯⋯あなたみたいなタイプ好きよ。権力を持っているのに施行しない所とか」

「私もラナさんみたいに裏表がない方は好きですよ」


 ラナさんは人間の⋯⋯特に理不尽なこと言う貴族が嫌いだから、王族でありながら王族の権利を行使しないティアのことを気に入ってもおかしくはない。


「私もラナさんを見習って、ティアリーズさんとお呼びするよう努力します」

「ありがとうルーナさん」


 どうやら丸く収まったようで良かった。ただルーナの言いたいこともわかるけどこれからの旅では、ティアの言うとおりにした方がいいのは確かだ。

 なぜなら⋯⋯。


「ルーナ⋯⋯これからは王女と呼ぶのは控えた方がいい。ティアが2人に冒険者の仲間として認めてほしいという気持ちもあるけど、もしメルビアに恨みを持つ者がティアのことに気づいたら⋯⋯」

「危害を加えられるかもしれませんね。ヒイロくん申し訳ありません⋯⋯私の考えがそこまでに至らず――」


 俺の言葉にルーナは反省の色を見せる。

 別に怒っているわけじゃないけどな。そんなに畏まられると俺の方が困ってしまう。


「ルーナさん。先程仰っていたメルビアの人通りですけど、以前よりとても多いです」


 ティアがこの場の雰囲気を変えるため、さっきルーナに聞かれたことを答え始める。

 さすが、日頃大人達の相手をしているだけあって、空気を読むのがうまい。


「たぶんルーンフォレストは直近で2回、魔物の襲撃を受けているから、皆避難してきているんだ」

「そうなのですね」



 そして次々と人が流れて来る中、前方より、一際大きい馬車が向かってきた。


 大きいな、これはおそらく貴族か商人の物だろう。数人の護衛も着いているので間違いない。

 俺達がその馬車とすれ違う時、不意に1人の青年から声をかけられる。


「ラナ? ラナじゃないか⁉️」


 ラナ? 声をかけてきた青年をよく見ると、耳が少し長い⋯⋯エルフか。

 銀髪で髪が長く、容姿端麗のため、女性受けしそうな見た目だ。


「エリウッド? エリウッド兄さんじゃありませんか⁉️」


 どうやらラナさんもそのエルフのことを知っているようで、驚きの表情を浮かべている。


「止まれ!」


 エリウッドは馬車を止め、俺達と向き合う。


「無事だったんだな」

「エリウッド兄さんこそ」


 久しぶりの再会なのか、軽く抱き合いながら、2人は喜びを噛み締めているようだ。


「よくあの襲撃の中で⋯⋯」


 襲撃? ひょっとして以前ラナさんが話してくれたエルフの村が襲われた時の話か⋯⋯家族の消息がわからなくなった。


「偶々勇者パーティーのマグナスおじ様が、通りかかってそれで――。それより私の家族⋯⋯姉さんや父さん、母さんのことをエリウッド兄さんは知りませんか!」

「⋯⋯いや、私も突然のことだったから、目の前の敵を倒すことで精一杯で⋯⋯」

「そうですか⋯⋯」


 家族のことがわかるかもしれない。そう思っていたのか、ラナさんはエリウッドさんの答えを聞いて落胆している。


「ラナ、後ろの人達は⋯⋯」

「私の仲間よ」


 エリウッドさんの視線がこちらを向いたため、俺は自己紹介をする。


「ヒイロと言います」

「ティアリーズです。よろしくお願いしますわ」

「ルーナです」

「⋯⋯エリウッドだ。ラナとは同じ村で育った仲だ」


 ん? 一瞬⋯⋯ほんの一瞬だったが、エリウッドさんから何かよくない感情を向けられた気がした。


「エリウッド兄さんはセルグ村の護り人をやっていて、とても強いのよ」

「そんなことはない⋯⋯村を護れなかったのだから⋯⋯それより人族と一緒で大丈夫なのか?」


 エリウッドさんは俺達の方をジロリと睨む。どうやら俺達のことを良く思っていないようだ。ひょっとしたらラナさんを捕まえて、奴隷商人に売り払うんじゃないかと思れてるのかもしれない。


「ここにいる人達は大丈夫よ」


 そんなエリウッドさんの視線に気づいたのか、ラナさんが俺達のことを庇ってくれる。


「そうだといいが⋯⋯ラナは今メルビアにいるのか?」

「そうよ⋯⋯ただこれからセルグ村に向かうけどね」

「セルグ村に⁉️ あそこにはもう何もないぞ」

「ちょっと調べたいことがあって⋯⋯エリウッド兄さんは今何をしてるの?」

「私は村が襲われた後、ステラ商会に世話になっている」


 ステラ商会?


「ルーンフォレストでかなり大きい商会になります」


 ティアがそっと耳打ちして教えてくれる。王女だからこういうことに詳しいのかな。


「今はメルビアまで、商品を運んでいる最中さ」

 確かにこれだけ大きい馬車なら荷物をたくさん運べそうだ。馬車の大きさからいってステラ商会がかなりの規模を持つことが伺える。


「またメルビアに戻ってくるのか?」

「ええ⋯⋯セルグ村を調査したら1度メルビアに戻る予定よ」

「そうか⋯⋯ならその時は声をかけてくれ。積もる話もあるから久々に食事でもしないか」

「わかったわ⋯⋯それじゃあエリウッド兄さんまた」

「気をつけろよ」


 ラナさんは去り行くエリウッドさんに手を振りながら、俺達はセルグ村に行くためにさらに北西へと向かった。

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