第142話 激昂のヒイロ
地獄の業火が、辺り一面を焼け野はらへと変貌させる。
「グゥァァァァ!」
多くの魔物が一瞬で灰となり、生き残ったものも何とか炎から逃れようと逃げ惑う。
「お前らはぜってえ逃がさねえ!」
既に戦意喪失している魔物もいるかもしれない。だがリアナを殺そうとした奴らを生かしておくわけにはいかない!
「【
城壁を飲み込むような波の壁が、多数の魔物を押し流し、息をすることも許さずそして生き絶える。
「まだまだぁぁ!」
俺は右手に魔力を込め、投擲の構えをとり、
「【
神をも焼き殺す神槍を、大海流でできた波を目掛けて投げ込むと、雷が水を伝って、断末魔を上げる暇もなく、全ての魔物が地面にひれ伏す。
そしてこの場に立っているのは、ヒイロただ1人となった。
魔物達は全て動かない⋯⋯どうやら全滅させたようだ⋯⋯だが!
「いつまで隠れているつもりだ」
俺は上空に話しかけると、ゆっくりとボルデラが地に降りてくる。
「フォッフォッフォ⋯⋯よく気がついたのう」
「最初の【
「怒りで周りが見えとらんと思ったが、意外に冷静じゃな⋯⋯」
「怒ってるさ⋯⋯怒りを通り越して、どうすればお前を確実に仕留めることができるかだけを考えているんだ」
こいつはまだ本気を出していないはずだ。
鑑定魔法を使って奴のステータスを確認しようとしたが、視ることができない。
魔道具を持っている様子はないので、少なくとも魔力だけは俺と互角か、下手をすると俺より上だ。
「さて⋯⋯次は私から行かせてもらおう⋯⋯【
これはさっきリアナを攻撃してきた魔法で、俺が防いだのになぜまた撃ってくる。効かないとわかっているのだろ。
俺は手にした翼の剣で難なく闇の弾を切り裂く。
ボルデラは俺を殺すことが目的じゃないのか? それとも俺をなめ腐っているかのどちらかだ。
「ほほう⋯⋯それならこれはどうじゃ」
今度は【
だがこの程度、どうということはない。
俺は数えきれないほどの魔法の弾を、かわし、剣で防ぎ続ける。
こんなことをしてもMPの無駄だ。
いったい何を考えているのか⋯⋯そっちが舐めた態度でくるなら早々に終わらしてやる。
だがボルデラは仮にも魔導軍団の団長⋯⋯ただ普通に攻撃しても、考えを読まれてかわされてしまう⋯⋯何か奴の意表を突く方法を取らないと⋯⋯。
「さあどうしたのじゃ⋯⋯それがお主の力か?」
早く攻撃をしてこいと言わんばかりに挑発してきやがる。
しかしこの位置で魔法を放っても、ボルデラにかわされることは必須。
ただ攻撃するだけではダメだ。
一度防御魔法を展開して仕切り直すか⋯⋯防御魔法⁉️
そうか! 防御魔法だ!
俺は魔法を放つ為、左手に魔力を込める。
「目に物を見せてやる!【
冷気が収束して【
「なんじゃこれは! 寒い! 外に出れん!」
ボルデラは氷の壁を叩き、あわてふためいている。
どうだ! 見たか!
本来【
今が絶好の好機!
「くらえっ!」
俺は飛翔魔法を使い、ボルデラの元へ一直線に突進して、右手に持った剣で【
「ぎゃあっ!」
悲鳴と共に氷とボルデラの胴体が真っ二つに割れる⋯⋯が手応えが全くない。
「ふう⋯⋯今は危なかったぞ⋯⋯残念ながら幻影じゃ」
言葉では危なかったと言ってるが、表情は余裕綽々だ。
こいつ! 本当腹立つ奴だなあ!
今、斬られる瞬間に、自分に偽た幻影を魔法で出し、なおかつ転移魔法で逃げやがった。
性格は糞やろうだが魔法の腕は超一流だ。ボルデラを倒すのは一筋縄では行かないな。
さて次はどうするか。
やはりあの転移魔法が厄介だ。あれを封じない限り、何をしても逃げられてしまう。
何とか魔法を封じることができれば⋯⋯。
「ふう」
これからの戦略を頭で練っていると、ボルデラが突然ため息をついてきた。
「年寄りには長時間の戦いは体に堪えるのう」
こ、このやろう! さっきからバカにしやがって!
「そろそろ他の者に代わってもらうか」
他の者だと! まさか!
俺は急ぎ周囲を確認すると、地上からもの凄いスピードで何かが走り、空中に浮いている俺の所までジャンプして斬りかかってきた。
「ちっ!」
俺は何とか翼の剣でその攻撃を受け止め、返す剣で横一閃になぎ払うが、相手は俺の腹を蹴った反動で、そのまま攻撃ををかわして地面に着地する。
「後は若い者達に任せて、わしは退散するぞい」
そしてボルデラは転移魔法でこの場から消えていった。
「くそっ! 逃がしたか!」
だが今はそのことに構っている暇はない。
俺は地上に降りて、改めて斬りかかってきた奴に視線を向ける。
全身黒い甲冑に兜、フェイスガードをしているため、顔は見えない。
しかしさっきの剣⋯⋯どこかで受けたことが⋯⋯魔物で剣を使う奴と戦ったことはダードくらいしかない。
「それがお前の本当の力か⋯⋯ヒイロ」
っ!
この声はまさか! ありえない!
俺は聞き覚えのある声に驚きを隠くすことができず、頭を打たれたような衝撃を受けた。
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