第128話 護衛

 護衛の依頼を受けた翌日


 メルビアへの護衛のため、今俺はルーンフォレスト王国の東門に来ている。


「エリスさん、私達を護って下さり、ありがとうございます」

「いえ、これも任務ですから」


 エリスさんから話を聞いた所、結局王城では、ディレイト王やティアを狙う奴らはいなかったとのことだ。

 そうなるとルーンフォレスト王国は、無関係なのか? いやそう決めるのはまだ早いな。城の中で他国の王族が殺されたとなると自国の責任問題になるため、殺害しなかった可能性もある。

 いずれにせよ、まだ安心できる状況ではないことは確かだ。

 ここからメルビアへの道のり⋯⋯気を引き締めていかないとな。


「俺からもお礼を言います。エリスさんありがとう」

「べ、別に貴方のためにしたわけじゃありませんから!」


 確かにそうだが、ティアから聞いた話では、自分の管轄外の時間でもエリスさんは護衛をしてくれてたらしい。

 おそらく俺が頼んだからだとは思うが、エリスさんは素直じゃないから認めないだろう。

 信頼できる人が王城にいて本当に良かった。

 俺は心の中でもう一度エリスさんに感謝する。



「それじゃあ、言ってくるよ」


 俺はティアに許可を得て、リアナ達には依頼の内容を伝えていたため、ここまで見送りに来てくれていた。


「ヒイロ、2人のことは俺に任せてゆっくり護衛をしてきてくれ」


 そう言ってリアナとルーナの肩を持つグレイ。

 そんなグレイに対して2人は苦笑いをしている。


「別にこんな人に頼らなくても私が付いているから大丈夫よ」


 そう言って2人の肩からグレイの手を引き剥がすラナさん。


「まさかラナさんまで見送りに来てくれるとは思わなかったよ」

「バカ言わないで、私はティアリーズ王女とクロちゃんの見送りに来たんだから」


 どうやらここにいるメンツは、ティアの時間がある時に、話し相手になっていたから、友達になったようだ。


「きゅうぅぅ」


 クロがラナさんに抱きしめられ過ぎて、瀕死の状態になっている。


 がんばれクロ、もう少しの辛抱だ。


「ヒイロちゃん、気をつけ⋯⋯なくてもヒイロちゃんは強いから大丈夫だよね。むしろやりすぎに注意してね」


 やりすぎってなんだよ。今までやりすぎたことなんてたぶんないはずだ。


「ヒイロくん、エッチなことはダメですからね。私達がいないからといって羽目を外さないように」


 ティアのことだってハプニングだ。俺が狙ってやった訳じゃない。


「ヒイロさん、メルビアに行ってしまうのですか⋯⋯私⋯⋯不安です」


 マーサちゃんだけが、純粋に俺を心配してくれている。


「大丈夫だよ。どんな奴が来ても俺は負けないから安心してくれ」

「いえ、そちらの心配はしていません。ヒイロさんは規格外ですから」

「えっ⁉️ そういうことじゃないの?」

「違います。ヒイロさんは人が良いから、ティア王女の策略に嵌まってしまわないか心配なだけです」


 マーサちゃんだけは俺の味方だと思ったのに⋯⋯。


「策略って⋯⋯俺はけっこうしっかりしてる方だと思うけどなあ」


 女好きのグレイ、どこか抜けているリアナ、人が良すぎるルーナ、まだ幼いマーサちゃん、人族と合わせることをしないラナさん、男嫌いのエリスさん⋯⋯中々個性的な人達が揃っているけど、この中で言えば俺はかなりまともなはずだ。


 シーン⋯⋯。


「ヒイロさん⋯⋯本当にそうおもっているのですか?」

「思ってるよ」


 マーサちゃんが、いや全員が冷たい目で俺を見てくる。


「お、俺のどこがまともじゃないっていうんだ」


 はあ~⋯⋯と聞こえてきそうなため息をみんなが吐く。


「ルーナさんにいいように弄ばれて【聖約】を結んでしまいますし」

「マーサちゃん⋯⋯私は弄んでいませんから」

「は、はい⋯⋯そ、そうですね」


 目が笑っていない笑顔で、マーサちゃんを注意するルーナ。


「私とマーサちゃんを、猛獣がいる森に連れていったこともありましたね」


 あれは2人のレベルを上げるために仕方なく⋯⋯。


「わ、私のパン⋯⋯ごにょごにょも凝視していましたし」


 ラナさんがいきなり蹴りを繰り出して来たから止めただけです。むしろ教えたから紳士と言えるんじゃないか。


「基本エッチなことが絡むとヒイロちゃんはポンコツになっちゃうよね」


 朝がポンコツのリアナに言われたくない。


「最低だな⋯⋯ヒイロ」


 グレイの方が最低だろと言い返したい。


「例えばメルビアに到着したら王妃様に会わされて、なし崩し的に結婚の話を持ちかけられたり」


 す、鋭い⋯⋯これが女の子勘がというやつなのか。

 確かにティアは初めに護衛の話ではなくて、結婚のことを冗談で言ってきた。

 ちなみに当人はというと、マーサちゃんに見破られ、明後日の方を向いている。

 まさか本当にメルビアに着いたら、そのまま結婚なんてことはないよな。よな。

 俺はそんな恐ろしい未来を想像して、思わずリアナの口癖が出てしまった。


「とにかく浮気はだめですからね。わかりましたかヒイロさん」

「大丈夫だ」


 何が大丈夫なのかわからないが、話が終わらなそうなので、とりあえずマーサちゃんの言葉に頷いておく。


「ティア王女もわかりましたか? ヒイロさんを誘惑しないで下さいね」

「⋯⋯もちろんです」


 答えるのに今、数秒かかっていたため、マーサちゃんはジト目でティアを見る。


「ヒイロちゃんは学園の代表、希望の星なんだからしっかり護衛の任務をしなきゃダメだよ」

「もし粗相をしてしまうとルーンフォレスト王国とメルビア王国で戦争が起こるかもしれません⋯⋯それと私とティア王女の個人的な戦争も⋯⋯いえ何でもありません」


 ルーナが恐ろしいことを言う。最近たまにブラックルーナになるからこちらとしては戦々恐々だ。



「それじゃあ行ってくるよ」


 俺は馬車の窓からみんなに向かって手を振る。


「気をつけてね」

「お帰りをお待ちしています」

「浮気はダメですからね」

「ちゃんとティア王女を護りなさいよ」


 段々とリアナ達の姿が見えなくなり、俺達はルーンフォレスト王国を後にした。



 東門城壁上部にて


「くそっ! あいつが王女の護衛だと! 俺は憲兵に追われてこんな惨めな姿になっているのに!」


 上壁の影から、憎しみの目でヒイロを見る者が1人いた。


「こうなったらもう⋯⋯を使って奴を⋯⋯ヒイロを殺してやる⋯⋯」


 その者の手には1つの種が握られていた。

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