第17話 青空の本気3
五時限目休み。青空は「ちょっとお手洗いに」と俺に小声で言って教室を出ていった。さすがに彼女も便所まで付いてこさせるのは気が引けるというか、彼女自身も嫌なのだろうが、それでも律義に毎回俺に伝えてくる。それだけだから、すぐに戻ってくるから、それを遠回しに言ってるのだろう。
何はともあれ本日三度目の一人時間。
「はぁぁぁ…………」
俺は机に突っ伏して溜息をつく。
朝での俺の問いかけが起因となって、青空が積極的に、想いを言葉や行動に表すようになった。
青空の気持ちはもう充分な程にわかった…………つもりだ。一度、どこかで朝陽と話し合いの場を設けなくてはな。
「おい真琴、な~に盛大に溜息ついちゃってんだよ」
「疲れてるんだ……ほっとけ」
「お前、今日一日彼女とイチャついてただけじゃん。だっつーのにぐったりしやがって、〝幸せ疲れ〟ですか? 贅沢なヤツめ」
「…………経験したことないから物言えるんだ。実際に味わってみろ? こうなるから」
俺は顔を上げ、前の席にいる友人、
「その「やれやれまったく」みたいなセリフもあるも含めて幸せそうに見えんだよ。んなことより――これ、こないだ話してたやつだけどよ」
と、本間はスマホを俺に見せるように掲げる。
表示されていたのは、男の自家発電をより気持ちよく、より円滑にする為の〝アイテム〟。
「兄貴に頼んで買ってもらったんだけどよ、これがまぁその……良きなんだよぉ」
「オープンすぎるだろ、お前と兄貴」
「何を今更、だろ?」
「まぁそうだが……にしてもだ、仮にも彼女持ちの男に、これを商品紹介するか?」
「わかってねえなぁ、真琴の為を思ってお勧めしてんだよこっちは…………奥手なお前には、まだまだ必要だろ?」
「ふ、馬鹿言え。俺が奥手だと? 見当違いも甚だしいな…………だが、興味は」
あると言おうとしたところで、視界の端に影が。
「――あるんですか?」
「ぬわッ⁉」
影の正体は青空だった。彼女は本間が掲げるスマホのディスプレイを食い入るように見つめている。
本間と喋ってて忘れてた、俺の自由時間があまりにも短いということに! てかなんで本間はスマホを引っ込めねんだよッ! なんでちょっと嬉しそうな顔してんだよッ!
「……興味、あるんですか?」
「な、なにが?」
俺に向き直った青空は、どこか不機嫌そうな面持ちをしている。
「だから、これ、興味があるんですか?」
「え? あ、べ、別に? 全然、ないけど?」
「嘘、ですよね?」
「いやいやいやいやホントホントホントホント」
問い詰めてくる度に顔を近づけてくる青空。俺はギリギリまで身を引いて適正な距離を保とうとするが、やがて彼女に肩を掴まれ、
「――そんな物を使わなくても…………わ、私がいるじゃないですか」
そう耳元で甘く囁いてきた。
――――――――――――ッ⁉
「お、おい真琴ッ、どうしたんだよ急に! なんで机に向かってヘッドバンキングしてんだよッ!」
いつの間にいつの間にいつの間にいつの間にいいいいッ⁉ いつの間に好感度はその領域にまで達していたんだああああああああああああッ!
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