第22話 授業参観
その日の俺はのんびりしていた。
おやっさんの家の居間に転がり、テレビを見ながらボーッとしていた。
「ユウヤ、暇そうだな?」
「ちょっと予定が空いちゃってねぇ~っておやっさん。」
「まあ、のんびりするのもいいが、そんなところで転がっていると筋トレに連れて行かれるぞ。」
「・・・逃げますね。」
「そうしとけ、明日、筋肉痛で動けなくなるとめんどくさいからな。」
「何かありましたっけ?」
「チカの学校で授業参観があるんが・・・」
「俺は関係ないですよね?」
「俺の代わりに行ってくれ。」
「関係ないって先に言ったよね!」
「先に言ったから良いってもんじゃねぇんだよ!」
「というか、俺が行くのはダメでしょ。せめて姐さんじゃないと。」
「保護者が行けばいいんだろ?」
「そうですね。」
「なら、旦那のお前が行けばいいだけの話だ。」
「誰が旦那だ!いい加減チカちゃんに怒られるよ!」
「そうでもないんだなぁ~」
「なんですかその気色悪い笑みは!」
「なんだろうなぁ~それより、明日はお前がいけよ、これは決まりだ!」
「なんで俺が?」
「真面目な話、俺と嫁は明日は義理事なんだ、代理を立てるならユウヤだろ?」
「はあ、それなら仕方ない・・・のか?」
「まあ、行ってこい。これは組長命令だ!」
「はーい・・・おやっさん、組長命令出すなら、盃を・・・」
「さらばじゃ!!」
「待てや、おっさん!盃をおいてけー!」
俺の叫びを無視しておやっさんは逃げ去った。
「くっ、また逃がしたか!さて、明日行くことをチカちゃんに伝えとかないとな。」
俺はチカの部屋に向かった。
「ということで、明日の授業参観は俺が行くことになったから。」
「・・・なんで?」
「あなたの父親に聞いてください。俺は被害者です。」
「だって、だって、明日だよ!どうしよ!御化粧しなきゃ!」
「しちゃダメでしょ、学校だよ!」
「だって、ゆうちゃんに恥ずかしいところなんて見せれないもん。」
「大丈夫だよ、チカちゃんはいつも可愛いから。問題は俺の方だよ、どんな格好で行けばいいのやら?」
「ゆうちゃんもいつも格好いいから普段通りでいいよ。ねぇじゃあ授業参観が終わったら一緒に帰ろ♪たまにはショッピングに行こよ。」
「いいよ、そうだよね。楽しい事ないと頑張れないよね、はぁ卒業したのに学校とは・・・涙が出るよ。」
「まあまあ、お互い頑張りましょ♪」
翌日、学校。
「チカどうしたの?なんで今日バッチリ決めてるの!」
「今日、授業参観だよ!人に見られるんだよ!」
「だからって、決めすぎじゃない?」
「だって~」
「ねえ、チカ今日来るのお父さん?」
ユカリは不思議そうな顔をしてサチに聞き返す。
「サチ?何を聞いてるの?」
「お父さん忙しいから来ないよ~」
チカはサチから眼をそらす。
「ふ~ん、だれが来るのかな?」
「おうちのひとだよー」
「ねぇ、家族かな?」
「・・・かぞくになるよ~」
「なるほど、ユウヤさん?」
「・・・なんのことかなぁ?」
「当たりね。」
「なんでわかったの?」
「顔に書いてあったよ。それで、今日来るんだ?」
「うん、でもね、やましい事何て無いのよ。ただ恥ずかしくないように準備してたら、バッチリ決まっちゃった。」
「あーあ、さっきから男の子達チラチラ見てるよ。」
「そう?それよりまだかな?」
チカはそわそわ窓の外を見る。
「あっ、きた!」
チカは足早に迎えに行った。
「さて、着いたけど、教室どこだろ?聞いておけばよかったなぁ。」
俺は駐車場に車を止め、校舎に入る、そして、教師と思わしき女性に声をかけた。
「すいません、2年1組にはどう行けばいいですか?」
「はい、2年1組はそこの階段を上がって・・・」
「どうなさいました?」
「いえ、あまりにお若いのでビックリしただけです。」
「あー父親じゃないんですよ。父親に頼まれまして急遽来ることに、世代が違って浮いてしまっているのが、ちょっと恥ずかしいですね。」
女性教師はふと気付く、
ユウヤのスーツがアルマーニということに、そして、注意深く見ると、身につけているもの全てがハイブランドだった。
「そうですか、でも、お父様に報告なさるためにもちゃんと見てあげてくださいね。さあ、私が案内しますので、こちらに・・・」
「ありがとうございます。でも、1人に掛かりきりでいいんですか?場所を教えてくだされば1人で行きますよ。」
「いえいえ、保護者の方を案内するのが私の役目ですから、あっ、申し遅れました。私は坪内ミサトといいます。気軽にミサトと呼んでいただければ。」
ミサトの眼は肉食獣のものだった。
「はぁ、それならミサトさんに案内頼みましょう・・・」
「ゆうちゃん!!」
「あっ、チカちゃん。」
「はぁはぁ、何してるの?」
「なんで息きれてるの?」
「そんな事より、何してたの?」
「何も、ミサトさんに教室までの案内を頼んでただけだよ。」
「なら私と行けば問題ないよ、坪内先生、私が案内しますので、お手数お掛けしました。」
「えっ、えっ!」
チカは俺の手を引き、連れて行こうとする。
「ちょ、ちょい、ミサトさん教室の場所わかりそうなのでこのまま行きますね。親切にしてくださり、ありがとうございました。ちょっと、チカちゃん引っ張りすぎだよ、こけるって!」
「いいの!それより早く行こうよ!」
俺はチカに手を引かれ教室を目指す。
階段を登っていたらチカが手を繋ぐのを止め、腕を組んできた。
「チカちゃん、どうしたの?学校なのに腕を組むの?」
「だって、ここは危険なんだもん。油断したらどこにケモノがいるか!」
「ここ、学校だよね?しかも、普段チカちゃんが通っている。」
「そうなんだけど、今日は違うの!あー失敗したなぁ、ゆうちゃんが来てくれるって浮かれてて、危険性を考えてなかったよ。」
「何を警戒してるの?それより教室はまだ?」
「もうちょっとだけど、いい、ゆうちゃんは私だけを見ててね、くれぐれも他所の女の子に着いて行かないようにね。」
「行かないよ!」
「アメくれるって言われても着いて行っちゃダメだからね。」
「行かないよ!!ってか俺何歳だよ!」
チカは笑いながら、からかってきていたが。どうやら教室に着いたようだった。
「やっぱり、ユウヤさんだ。」
「サチちゃん、久しぶり。」
「あ、あのユウヤさん、お久し振りです。」
「ユカリちゃんも久しぶり、二人ともチカちゃんがお世話になってます。」
「はい、今日は授業参観に来られたんですよね?」
「そうだよ、おやっさんが来れないからって代役できたんだけど、よく考えたら来ちゃダメだったようなぁ~」
「はは、もう遅いですよね。でも、来てくれて私は嬉しいなぁ~今日はチカだけじゃなく私も見てくれますか?」
「えーと同じクラスなら・・・」
「見ません!!ゆうちゃん、いい、他の女の子は見ちゃダメなんだからね。」
「ちょっとチカ少しぐらいいいじゃん。」
「ユカリ、私はユカリと友達でいたいんだぁ~」
「こ、怖いよチカ。」
「あまり、わがまま言わないでくれるかな?かな?」
「あー、わかりました。でも、ユウヤさんの眼が来たら仕方ないよね。」
「うーーー!それは!やだけど!でも!仕方なくて!」
チカは手をパタパタ振るわせ、拒絶アピールをしていた。
「ほら、二人とも落ち着いて、俺は後ろで見てるから、いつも通り授業受けなよ。」
「うーー、はーい。」
「よろしい。」
俺はチカの頭を撫でる。そして、教室の後に行く。そこには既に父兄の何人かが来ていた。
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