第5話ー③ 実来の夢

 ――夕食後。


 食堂には、実来と織姫、そして狂司がいた。


「じゃあ、始めましょう。プロジェクト発表会、第一弾のミーティングです!!」


 楽しそうにそう言う織姫に、


「その前に、一ついい?」


 実来は右手を上げてそう尋ねた。


「はい、実来どうぞ」


 織姫に手のひらを向けられた実来は、ニコニコと笑って座っている狂司に視線を向けた。


「狂司はどう思ってるの? 織姫が勝手に突進して……ってことじゃないよね?」


 実来は真剣な顔で狂司にそう尋ねた。


 狂司が織姫の暴挙に渋々付き合っているのではないか、と実来はそう思ったからだった。


 すると、


「失礼な! それに、突進って――!」

「今回のことは昨夜のミーティング時に2人で決めたんですよ。だから僕は了承しているし、賛成です」


 狂司は織姫の言葉を遮って、笑顔でそう答えた。


「そっか」


 ホッと胸を撫でおろしながらそう言う実来。


「ごほん。それでは、先に進めますよ?」

「はい、よろしくお願いします!」


 それから織姫と狂司がひと晩で考えたプロデュース内容を聞く実来。


 それはプロジェクト発表会の中で、小さいながらもファッションショーを開催するという内容だった。


「でも、プロジェクト発表会って……人は集まるの?」

「ええ。そこはぬかりなく」


 織姫はそう言って含みのある笑いをした。


「まるで自分の功績かのようなしたり顔はやめてくださいよ。あくまで僕の提案でしょう?」


 そう言ってやれやれとため息を吐く狂司。


「良いじゃないですか! 2人のプロジェクトなのだから、あなたの功績は私の功績と言っても過言ではありません!」


 嬉しそうにそう言う織姫に、


「……まあ、いいですけど」


 狂司は少し間をおいてそう答えた。


「えっと、それで?」


 実来が織姫たちの様子を窺いながら、そう尋ねると、


「はい、ここは人の力を借りるのです」


 織姫は笑顔でそう答えた。


「力を、借りる?」


 実来がぽかんとしていると、織姫はイキイキと語り始めた。


「――ということです。わかりました?」

「それ、すごいね。凛子ちゃんや『はちみつとジンジャー』の2人に宣伝してもらうなんて……」


 きっと自分だけじゃ、こんなことを思いつくことなんてなかった。やっぱり織姫たちはすごい――


 呆然と織姫を見つめてそう思う実来。



「うふふ。でも、それだけじゃないですよ? 事務所所属が決まった結衣さんにも、声優仲間の人たちへの声掛けを頼む予定です!」


「無名の人間が何かを成そうと思った時、自分だけの力じゃ限界がありますよね? だから無名の自分よりも大きい拡声器を持つ人たちの力を借りて、自分たちの声を拡散してもらうんです」



 織姫と狂司の説明を聞き、実来は感心しながら「な、なるほど」と言って頷いた。


 確かさっき織姫もそんなことを言っていたっけ――


「ただここで重要なのは、先を見据えることです」

「先を見据える?」


 実来は織姫の言葉を確かめるように復唱して、首を傾げた。


「そう。いくら拡散されても、それが不良品ならばそれ以上にはなれない。でも良質ものだったら、確実に広まっていく」


 補足するように狂司はそう答えた。


「実来の熱意は本物です。だから、実来しかいないと思いました。成功させましょう、私達のプロジェクトを。実来の夢を!」


 そう言う織姫とその隣にいる狂司を交互に見つめる実来。


 2人はそんなことを考えてくれていたんだ……やっぱりまだ敵わないな。肩を並べるまではまだまだかかりそう。でも、そんな2人がそこまでしてくれるなら、私がやらないって答えはない――!


「うん――叶えようね、私達の夢!」

「はい!!」


 そしてそれから数か月にわたり、プロジェクトの準備が進められた。




 ――プロジェクト発表会当日。


 結衣、凛子、『はちみつとジンジャー』の2人の宣伝効果もあり、多くの人間が注目する中、発表会の日が訪れた。


「今日って、メディアの関係者とかも来るんだよね」


 実来はソワソワしながらそう言った。


 実来と織姫は開始時間になるまで、教室で待機していたのだった。


「そういえば、狂司は?」

「ええ、そのメディア関係者の方たちへの対応をしてもらっています」


 書類に目を通しながら、淡々とそう答える織姫。


 なんだかいつもより元気がないような……いや、緊張しているのとかかな――?


 そう思いながら、実来は織姫を見つめた。


「織姫は一緒じゃなくていいの?」

「ええ。私より、彼の方が大人の対応はなれているので。……まあ、私もいつまでも彼に頼ってばかりはいられませんが」


 そう言う織姫が、実来にはなんだか悲し気に見えていた。


 どうしたんだろう。それに、人に頼ればいいって言ったのは織姫だったのに――


「んー、前に織姫も言ったじゃん? 人の力を借りればいいって。狂司がその分野にたけているんだったら、そのまま頼ればいいんじゃないの?」

「――そういうわけにもいきませんからね」


 そう言って暗い表情をする織姫。


 そんな織姫を見て、実来は首を傾げる。


 それから実来は織姫の前に立つと、むにっとその頬をつまんだ。


「えっ! 何です!?」


 実来はそう言う織姫の声も聞かず、「えいっ」とその頬を上に引っ張った。


「い、痛いっ! 何すふんですかっ!!」


 うまく発音できない織姫にクスリと笑い、


「いや、なんだか暗い顔をしてたから、つい」


 織姫の頬を引っ張ったままそう言った。



「は、はあ!?」


「織姫は笑った方が可愛いから」


「さっきまでソワソワしていたくせに」


「織姫のおかげで緊張がどっかいった! ははは」


「まったく」



 やれやれと言った顔をする織姫。


「織姫、見ていて。すっごいウォーキング見せるから。このプロジェクトはすごいんだぞって私が証明するから。だから笑って!」

「――はい」

「よしっ!!」


 それから実来は織姫の頬から手を放し、


「んじゃあ、時間まで最終チェックを――」


 そう言って立ち上がる。すると、


「織姫ちゃん、応援に来たですよ~」


 そう言いながら、教室に入ってくる縁眼鏡をかけた女性――声優の結衣と、


「え!? あ――」


 その後ろから、実来の憧れ『はちみつとジンジャー』の真一が顔を出す――。

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