第84話ー③ お父さんとお母さん

 ――会議室にて。


「ここで待っていてと言われたけどさ……」

「誰も来ませんね」


 暁たちがそんなことを呟いていると、会議室の扉がゆっくりと開いた。


「ああ、すまないね暁君。奏多君も!」


 所長は申し訳なさそうな顔をしてそう言った。


「いえ、お忙しいところすみません」

「いやいや。君たちも忙しいのに、待たせて悪かったね!!」


 頭を掻きながら、そう言って椅子に座る所長。


「それで水蓮君の事だったか」

「ええ」

「救助した時のことを教えてください」


 奏多がそう言うと、所長は会議室の扉の方に視線を向ける。


「ああ、それは私よりも――」

「櫻井? ここで合っているか?」


 そう言って神無月が会議室に入ってきた。


「ああ、こっちだよ!」


 所長が手を上げてそう言うと、神無月は暁たちの前まで歩いてきた。


「えっと、彼は……?」


 奏多はそう言って首を傾げた。


「奏多は初めましてだったな! キリヤと優香の先輩で『グリム』の隊長さんの神無月さんだ」


 暁がそう言うと、


「どうも、初めまして!」


 そう言ってニコッと微笑む神無月。


「じゃあ、こちらの神無月さんが水蓮を救助した、ということでしょうか?」


 奏多は所長の方を見てそう尋ねる。


「そうだね。じゃあ、神無月君。その時のことを話してくれるかい?」

「おう! 通報を聞いた俺が、最上邸へ行くと――」


 神無月はその当時のことを思い出しながら、暁たちに説明した。


 当時、神無月が水蓮宅に着くとすでに家の周辺は石化しており、石化して砕けた両親を前に、水蓮が大泣きしていた。


 そしてその後、能力使用による疲労からか水蓮はぱたりと倒れて眠りにつき、その隙に研究所まで運んできたということだった。


「近隣の人たちからの聞き込みでも、最上家は仲睦まじい様子だったらしい。だからあの少女の力がなぜ覚醒したのか、不明だったわけだ」

「そう、ですか……」


 1stである母からの遺伝で、急に能力が覚醒したのかもしれない――暁はふとそんなことを思っていた。


「他に、家族との調査データはないのですか?」

「俺の調べでは、これが限界だった。すまないな……大した情報を伝えられなくて」


 そう言って頭を下げる神無月。


「いえ。そんなことはないですよ。ご丁寧にありがとうございました」

「ありがとうございました」


 そう言って奏多と暁は頭を下げた。


「ははは。お二人とも優しいんですね。あの子のことを頼んます!!」


 神無月はそう言ってニッと笑うと、仕事があるからと会議室を出て行ったのだった。


「それで、なぜ水蓮君の過去を知ろうと思ったんだい?」


 所長は両手を組みながら、暁たちにそう尋ねた。


「ああ、えっと……水蓮が親を求めているから、です」

「ほう」

「俺が親権を取りたいと思っていて、それを奏多に相談したら、覚悟を決めるために水蓮の過去を聞こうってことになって」

「そういうことか……それで、なぜ奏多君だったんだ?」


 ニヤニヤと楽しそうに問う所長。


 その顔は何か知っていそうだな――そう思いつつ、暁は奏多との婚約の件を伝えた。


「そうか、そうか! おめでとう、二人共!!」

「ありがとうございます」


 そう言って顔を赤くしながら、頭を掻く暁。


「でもそうなると、奏多君は結婚後にすぐ親になるわけだが……」

「ええ。でもいいのです。水蓮が娘なら大歓迎です!」


 そう言って満面の笑みを浮かべる奏多。


 その笑顔を見て、ほっとする暁と所長。


「もうその言葉があれば十分じゃないか、暁君?」

「あはは。そうですね。いろいろな悩みが吹き飛んだ気がします。きっと奏多と一緒なら、俺は無敵なんだろうなって」


 そう言って微笑む暁。


「ははは! まったく、見せつけてくれるなあ」

「あ、そういうわけじゃ――」

「いいんだよ! あはは!」


 そう言って笑う所長の顔を見て、奏多と暁も笑ったのだった。


「じゃあ帰って水蓮君に伝えてきなさい。そして諸々のことはまた一緒に進めて行こう」

「はい!」

「じゃあ、戻りましょうか。暁さん?」

「おう!!」


 そして暁と奏多は水蓮の待つ保護施設に戻っていったのだった。

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