第82話ー⑧ S級クラスの出来事

「別に。それで……さっきのローレンスさんとのことを教えてくれるのでしょう」


 織姫は淡々とそう言った。


「はい。でもその前に……」


 狂司はそう言って織姫の目の前に座る。


「なんですか」

「昨日はひどいことを言ってしまってすみません」


 狂司は織姫の顔をまっすぐに見てそう言った。


「実来に謝れとでも言われましたか」

「……昨日の夜、もしかして食堂へ?」

「黙秘します」

「それが答えじゃないですか」


 そう言って苦笑いする狂司。


「別に謝られる覚えはないです。私も少し勘違いをしていたので」

「勘違いって?」

「…………その、烏丸君も私と同じなのかなって」

「どういう意味ですか?」


 首をかしげてそう言う狂司。


「ビジネスパートナーでありつつ、いてくれないと困る存在……というか」

「――それは違いますね。僕は織姫さんをビジネスパートナーとしか見ていないです。だからあなたとは違います」


 狂司ははっきりとした口調でそう言った。


「やっぱり、そうですよね。それが分かっただけで十分です」


 そう言って織姫は俯く。


「そう、ですか……それでは話の続きをしても?」

「ええ」


 やっぱりこの人は冷たい人なんだ――狂司を見ながらそう思う織姫。


「僕はここへ来る前にことから話しますね――」


 そして狂司はまたこの施設に戻ってくるまでにあったことを織姫に伝えた。


「――烏丸君はもともとは反政府組織にいて、その組織と敵対していた政府の極秘組織に在籍していたローレンスさんと命がけで戦ったと……」

「はい」

「へえ」

「それだけですか?」


 きょとんとした顔をする狂司。


「え……はい」

「もっと何かないですか? 僕に対してでも何でも……」


 私に何を言ってほしいのでしょうか。しかし、もう終わったことに対して、私がとやかく言う事ではない気がするんですよね――


「別にないですよ。それに、2人はもう敵対していないのでしょう。だったら、終わりでいいじゃないですか。確かにお兄さんのことを許せない気持ちはわかりますが、そもそもローレンスさんがそれに直接かかわってはいないのでしょう?」


 織姫が淡々とそう言うと、


「そう、ですね」


 目を見張りながら狂司はそう言った。


「じゃあ、それ以上は何もないじゃないですか」

「あははは」


 狂司に笑われ、ムッとする織姫。


「何、笑っているんですか」

「あ、いや。僕も勘違いをしていたみたいです」

「勘違い?」


 そう言って織姫は首を傾げる。


「ええ。この話をしたら、君に軽蔑されるんじゃないかってそう思って。だから話せなかった」

「しませんよ、そんなことで」


 織姫はそう言ってそっぽを向いた。


 私をそんな薄情な人間だと思っていたのですか! 心外ですね――


「よかった。如月さんに話せたのは、彼女に嫌われても構わないって思ったから言えたんですよ。でも、織姫さんに嫌われるのはなんだか怖かった……」

「え!?」


 そ、それってどういう意味なのでしょう!? いえ、ここで騙されてはいけません。この人はそうやっていつも私をからかってくるじゃないですか――!


「織姫さんの言うことは勘違いじゃないのかもしれませんね」

「は、はい!? 何を言って――」


 織姫がそう言って顔を赤くしていると、


「やっぱり大切なビジネスパートナーの存在はもっと大事にしないとって思いました。きっと織姫さんの計画が成功するという確信が僕の中にあるんでしょうね!!」


 そう言って微笑む狂司。


 まったく……でも、とても彼らしい返答ですね――そう思いながら、織姫はやれやれと言った顔をする。


「それじゃあ、昨日は全然ミーティングができなかったので、今日はみっちりやりましょう。いいですね、織姫さん?」

「ええ、わかりました。必ずこのプロジェクトを成功させましょう、狂司さん」


 織姫が笑顔でそう言うと、狂司はきょとんとした顔をする。


「あの、名前……」

「嫌、ですか?」


 織姫が恥ずかしそうにそう尋ねると、


「いいえ」


 狂司は笑顔でそう返した。


「よかった。じゃあ、さっそくですが――」


 それから織姫と狂司は、数時間その場所で話し合ったのだった。



 * * *



 ローレンスが施設に来て数日。狂司とローレンスの関係は少しずつ改善され、織姫と狂司も仲直りをしたようで、いつも通りの毎日を送る施設の生徒たち。


 その後。授業を終え、暁は職員室で報告書をまとめていると、急に暁のスマホが振動した。


「誰から……優香!? ってことは帰ってきたのか!」


 そして通話に応じる暁。


「もしもし!?」

『あ、先生。たった今施設に到着しました。開けてもらってもいいですか?』


 優香はそれだけ告げて、通話を終えた。


「キリヤはどうなったんだよ!?」


 それからゲストパスを持ち、暁がエントランスゲートへ急ぐと、そこには優香とキリヤの姿があった。


「お、おかえり! 待ってた。2人が一緒に帰ってくるのを!!」


 そして暁はその場で少しだけ会話をした後、キリヤたちと別れた。


「そうだ、奏多にも連絡を……」


 暁が奏多に連絡を入れると、奏多は安堵した声で、


『これでようやくすべてが解決ですね』


 と言ったのだった。


 通話を終えた暁は窓の外を眺め、


「そうだな。これですべての出来事が解決だ」


 笑顔でそう呟く。




 ようやく戻って来た日常。


 違う世界で変化のあったキリヤと優香。そしてこちらの世界に残った俺たちにもキリヤたちと同様に様々な変化があった。


 こうして俺たちは少しずつ未来へ向かっていくんだろうな――

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