第71話ー④ 捕らわれの獣たち 後編

 地上――。


 翔と奇抜な服装をした少女、キキが対峙していた。


「私とほたるを分断したところまではいいですが、あの大人を1人にして大丈夫ですかあ? ほたるの能力はあなたも知っていますよね?」


 キキは挑発するように翔にそう告げた。


「大丈夫。僕はドクターを信じている。それに、君の方が危ないんじゃない? 前に僕が見逃してあげたことを忘れたわけじゃないよね?」


 翔も笑顔で挑発するようにキキ告げた。


「ええ。もちろんです。なので、今回は――」


 そう言って雲に乗り、空中へ上がるキキ。


「これくらいの距離を保って戦わせて下さーい」

「へえ。なるほど。近接戦闘を避けようってこと」


 翔は空中にいるキキを見ながら、そう言った。


「いくら『ゼンシンノウリョクシャ』のあなたでも、ここまで飛び上がることはできませんよね? 大蛇くん??」

「まあ、君の言う通りだね」


 さて、どうしようか。あの子の言う通り、僕は飛ぶ能力はない。正直お手上げ状態だ――


「あれれー。やっぱり打つ手がないみたいですねえ。じゃあ、このまま君には死んでもらいまあす!」


 キキがそう言って人差し指を翔に向けると、急に天気が悪化して、雷鳴が聞こえ始める。そして激しい音を立てながら、一筋の雷が翔に向かっていく。


「うっ……」


 翔が目を閉じて両腕で顔を覆った。


 誰か、助けて――


 そう思った時、目の前に誰かの気配を感じた。


「久しぶりだな、翔」


 その声に目をあけると、目の前に懐かしい姿を見つける翔。


「兄、さん……?」

「おうっ!」


 そう言って微笑む暁だった。



 * * *



 神無月たちと共に地上を目指していた暁は、ようやく建物の外へとやってきた。


「とりあえず安全なところに避難しよう。まだ終わったわけじゃないからな!」


 神無月は周りを警戒しながら暁たちにそう告げた。


「わかりました! ……でもなんだか空が暗いですね」


 暁が空を見上げながらそう言うと、


「確かに。天気予報では何も言ってなかったが……もしかしたら通り雨でも降るのかもしれない」


 神無月もそう言いながら、空を見た。


「そうですか……」


 これ以上、何も起こらなければいいが――と空を眺めながら思う暁。


「確か、『エヴィル・クイーン』の能力者に天気を操る少女がいるってキリヤ君からきいたことがあります。安全なところに行くまでは、警戒を怠らないようにしましょう」

「おう!」


 神無月は優香の言葉を聞き、さらに警戒心を強めながら歩みを進めた。


 確か、翔も囮になってくれているって――


 ふとそう思った暁は、


「あの、すみません。少し先に行っていてもらえますか? 自分はちょっとやることが」


 真剣な表情で神無月にそう伝える。


「ん? ああ、わかりました。まあ先生ならきっと大丈夫だろうし、お気をつけて!」


 神無月は暁に笑顔でそう言った。


 もしかして、何か察してくれたのかな。何にしても、ありがたい――


「ありがとうございます! 必ず戻ります!!」


 そう言って、暁は翔を探すために走り出したのだった。




 神無月たちと別れた暁は、建物の外側から表面玄関を目指していた。


「さっき俺たちが出たところは裏口みたいなところだったよな。おそらく表側に行けば――」


 そして建物の正面玄関付近に来たとき、誰かの声を耳にする暁。


「あれれー。やっぱり打つ手がないみたいですねえ。じゃあ、このまま君には死んでもらいまあす!」


 それから建物の角を曲がると、そこにはかつて保護施設へ襲撃に来ていた少女と少年の姿があった。


「雷!? 翔が危ない――!!」


 そして翔の前に駆けこんだ暁は、その雷を無効化の能力で打ち消した。


「久しぶりだな、翔」

「兄、さん……?」


 翔が目を丸くしながらそう言うと、暁は前を向いたまま「おうっ!」と答えた。


「なんで……」

「翔がここにきているって聞いたから、会いに来たんだよ」


 暁はそう言ってから、翔の方を見て微笑んだ。


「あらら。また先生ですか」

「よう。久しぶりだな」


 暁はキキの方を見て、そう告げる。


 それからキキはゆっくりと地上に降りてきた。


「戦う気は……なさそうだな」

「ええ。あなたに来られたんじゃ、私もお手上げですからね。『獣人化ビースト』は跳躍力もありますし、空中で無効化を使われたんじゃ、たまったもんじゃないです」


 ため息交じりにそう言うキキ。


「――それに、今回の作戦は私もそんなに乗り気じゃないでしすしね」


 そう言ってキキは俯いた。


 乗り気じゃない――?


「それは、どういうことだ?」

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