第65話ー② 帰還者

 食堂にて。


 剛は一人で朝食を摂っていた。


「ここもあんまり変わらないな。あの頃のままだ」


 そんなことを呟きながら、食堂を見渡す剛。


 そして食堂に姿を見せた暁と水蓮が視界に入った剛は、


「あ、先生! 水蓮もおはよう」


 と笑顔でそう言った。


「待たせたな、剛!」


 剛の姿を見てから暁の後ろに隠れる水蓮。


「一回会ったことあるだろ? 剛だよ。前に迷子になっているところを助けてくれた人」


 その言葉を聞いた水蓮は恐る恐る剛の顔を見る。


「久しぶりだな!」

「…………あ!」

「お? 思い出したか??」

「うーん。やっぱり覚えてない!」

「ええええ……」

「あはは……」


 あれから4か月近く経っているし、その間に一度もあっていないから仕方ないよな――と肩を落とす剛だった。


 それから暁と共に剛は朝食を楽しんだ。もちろん水蓮も一緒に。



 * * *



 朝食を終えた暁は、剛を連れて職員室へと向かった。


「水蓮は部屋でミケさんと遊んでいてくれるか?」

「はーい」


 水蓮はそう返事をして、暁の自室に入っていった。


「わざわざ水蓮を遠ざけたのは、水蓮の話ってことで合ってるか?」


 剛は暁の自室の方を見てそう言った。


「ああ。よくわかったな」

「……水蓮と前に廊下で会った時さ、目を合わせちゃいけないって言っていたのに、先生と居るときは普通に会話ができた。それって先生の無効化の力を使っているってことだよな」


 剛の推測を聞き、目を丸くする暁。


「……驚いたな。少ない情報量でよくそこまで」

「そんな難しい話でもないと思うけどな。それで、水蓮も能力者なのか?」

「ああ。……それに俺と同じSS級なんだ」

「え……」


 目を見開いて驚く剛。


 そんな剛を見て、剛がそんな顔になるのも無理はないだろう――と思う暁。


「俺が近くにいる分には能力が誤って発動することはない。でも前みたいに水蓮だけになった時は気をつけてほしいんだ」

「なんで誤発動なんて……?」

「水蓮はまだ能力を制御できる年齢じゃないんだよ。だから無意識に能力が発動して、それで……」


 俯く暁。


 そう。それで水蓮は――


 そう思いながら、暁は悲痛な顔をした。


 暁のその表情を見た剛は「ああ、わかったよ」と小さい声でそう言った。


「ありがとな、剛」

「良いってことよ! でもさ、先生もすっかり父親だな! 水蓮のことを本当の子供みたいに大事にしているんだな!」


 そう言って歯を見せて笑う剛。


 前に送迎してくれた運転手のお兄さんも似たようなことを言っていたな――


「みんなそう言ってくれるんだよな。俺にはわからないんだけどさ」

「自分ではわからないものなんじゃないか??」


 そう言って笑う剛。


「そうかな? でもありがとう」

「おう! じゃあ真面目な話はもう終わりか? だったら、今度は面白い話をしようぜ!」

「そうだな。何が聞きたい?」

「俺がいなくなった後の施設の話!」

「わかった」


 それから暁は剛に話したかった思い出を語った。その話を終始、笑顔で聞く剛。そして時間は流れて、昼過ぎになった。


「先生! お腹空いた!!」


 そう言って部屋から出てくる水蓮。


「じゃあ昼飯にしようか!」

「うん!」


 そして暁たちは再び食堂へと向かい。昼食を摂ったのだった。




 翌日。新学期が始まった。


 暁が教室に向かうと、誰よりも早く剛が机に座っていた。


「おはよう! 早いな」

「へへへ。なんだか久しぶりだったから、うずうずしちゃってさ」

「そうか! じゃあ受験勉強は落ち着いてやっていこうな」

「おう!」


 剛は次の大学受験のため、この施設で過ごすことになっていた。


 剛はやる気満々だな。今度は無理させないように、しっかりサポートしないとな――


 そう思いながら、暁は剛の笑顔を見つめたのだった。


 それから凛子と織姫が教室に訪れ、見覚えのない剛の姿に目を丸くしていた。


「あのお。あなたは一体誰なんですかあ? 部外者は進入禁止ですよねえ?」


 凛子はそう言って、怪訝な顔をする。


「あ、悪い! 俺は火山剛だ! 前までここの生徒だったんだけど、ちょっといろいろあって眠っていたというか……だからしばらくの間、ここで過ごすことになったんだよ! よろしくな!!」

「へえ。そうだったんですね☆ 不審者扱いしちゃってすみませんでした!!」


 そう言って舌をぺろりと出す凛子。


「剛は奏多と同級生だったんだよ! だから奏多のことは俺よりも詳しいかもしれないぞ、織姫?」

「なんでそんなことを私にいちいち言うのですか?? 不愉快ですね」

「いや、織姫が知りたいかなっと思っただけで、気分を悪くしたのなら謝るよ。ごめんな」

「すぐに謝る!! そういうのも気に入りません!!」


 そう言ってそっぽを向く織姫。


「俺はどうしたらいいんだ……」

「ふんっ」


 そして着席する生徒たち。それから剛を含めて、いつもの授業が始まったのだった。

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