第64話ー⑤ その力の真実を

 車がエントランスゲート前に到着すると、暁は眠ってしまっている水蓮とミケの方を見て、


「ほら、2人とも。施設に着いたから、そろそろ起きろー」


 そう声を掛けた。すると、水蓮は目をこすりながら身体を起こす。


「もう、着いたの?」

「おう。また部屋でお昼寝しような、水蓮」

「はあい」


 そしてそんな暁たちのやり取りを見て、運転手の青年は笑っていた。


「え? もしかして、何か変でした!?」

「いえ、なんだか本当の親子みたいだなって思って」


 傍から見てるとそう見えるものなんだな――と暁は頷きながらそう思った。


「先生、スイのパパになってくれるの??」


 水蓮は、眠たい目をこすりながらそう言った。


「俺は水蓮の先生だからな……パパにはなってあげられないんだよ」

「そっかー」


 水蓮は残念そうな表情をして、そう答えた。


「よし、じゃあ降りるぞ」

「うん」

「じゃあ今日はありがとうございました。またよろしくお願いします」


 暁は運転手の青年にそう告げてから、ミケを抱き上げて車を降りた。


「ありがとう、ございました!」


 水蓮もぺこりと頭を下げてそう言ってから暁に続いて車を降りた。


 それから車は来た方向に帰っていった。


「ミケさんも自分で歩いてくれよ……」

『ぐうぐう』


 本当に寝てるのか? まさか狸寝入りとかじゃないよな――そんなことを思いつつ、暁はミケを見つめた。


「ミケさん、ねむねむなんだね! あとでスイと一緒にお昼寝しようね!」


 水蓮はそう言って、ミケに微笑みかけていた。


「水蓮は優しくて、いい子だな」

「えっへん!」


 暁たちはそんな会話をしながら、自室へと向かっていた。




 暁、自室――。


「ミケさん、スイとお昼寝だよー」


 そう言って水蓮は暁からミケを受け取って、ベッドに寝転んだ。


「じゃあ水蓮。あとはミケさんをよろしくな」

「はーい」

「俺はちょっとだけお仕事するから、何かあったら何でも言ってな?」

「うん」


 それから暁は自室の机に向かい、PCを起動した。そして残っていた書類仕事を片付けていく暁。


 そして仕事をしながら、暁はふと優香のことを思い出していた。


 俺は帰っても水蓮やミケさんがいるから、能力のことを悶々と悩むことはない。でも優香はどうだろうか――


「今のキリヤに優香を支える元気はあるのかな」


 そんなことを思い、険しい顔になる暁。


 いつもなら一緒に話を聞いて、きっと優香なら大丈夫って言っていたはず。でもキリヤもキリヤで今、何かにもがき苦しんでいる。離れているとなかなか2人のことをわかってあげられないんだな――と暁は歯がゆい気持ちになっていた。


「はあ。優香に時間を無駄にするなとは言われたけど、やっぱり生徒が悩んでいると思うと、いてもたってもいられないんだよな。……まあ何ができるわけでもないんだけどさ」


 本当にどうすることもできないのか……? もしかしたら、能力を消失させる方法があるんじゃないのか? 残り7年しかヒトとしていられない運命なんて、そんなの俺は――


 暁はそう思いながら、ぼーっとPCの画面を見つめる。


「あまり時間はないけど、俺のできる限りで方法を模索しよう。俺にも関わる問題だしな」


 それから暁は書類仕事を再開したのだった。




 その力の真実を知ってしまった優香は、これからどう考えて生きていくのか。


 それを知らせた暁自身は、どう行動を起こすのか。


 2人の運命はどう変わっていくのだろう――

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