第60話ー③ おしゃべり猫と石化の少女

 ――施設内、廊下。


 暁と水蓮は建物内を歩いて周っていた。そして目の前を楽しそうにスキップをしながら歩く水蓮を見て、本当にこの子がSS級なんだろうかと疑問を持つ暁。


 こんなに明るくて元気な子なのに、この年で能力に目覚めるってあるのだろうか。もしかして検査ミスか何かなんじゃないか――


 腕を組んで考える暁だったが、結局その答えは出なかった。


 まあそれがはっきりするまでは、ここにいる生徒として仲良くできるといいな――! そう思い、暁は微笑んだのだった。


 そして暁は自らの紹介を水蓮にしていなかったことに気が付く。


 仲良くなる以前に、まずは俺のことを知ってもらわないと――!


「なあ、水蓮」

「え? どうしたの?? おじさん!」

「お、おじ……」


(白銀さんよりは若いんだけどな……もしかしてこの服装のせいなのか!?)


 そんなことを思い、身に纏っているジャージに目をやる暁。


 いや、まだいけるだろう――!


「えっとだな。俺はまだおじさんって年じゃ……って言っても伝わらないんだろうな。うーん。まあとにかく! 俺のことはおじさんじゃなくて、暁先生って呼ぶこと! いいな?」

「うん! わかった!! えっと……暁先生!」

「そう! 偉いぞ~」


 そう言って暁は水蓮の頭を撫でる。それからとても嬉しそうな顔をする水蓮。


「なんだか暁先生は、スイのパパみたいだね!」

「パ、パパ!? そう、かな??」

「うん! だから今日からスイのパパは暁先生ね!」

「え? な、なんでそうなるんだよ!?」


 暁がそう言うと、水蓮は暁に抱きついて、


「……ダメ?」


 そう言って目を潤ませて暁の顔を見た。


 そんな顔されたんじゃ、断れないだろう――!


「ダメってわけじゃないさ。けど……」

「わーい! パパ……うふふふ」


 そう言って水蓮は暁にぎゅっと抱き着く。


 たまにはこういうのも悪くないのかもしれないなと思いながら、暁は抱き着く水蓮の頭をポンポンと叩いた。


 父さんも俺や美鈴が甘えた時は、こんな気持ちになったのかな――


 そんなことを思いつつ、暁は水蓮に優しい視線を送っていた。


「じゃあこれから水蓮が住むお部屋に案内するよ」

「うん!」


 それから暁は水蓮を連れて自室に入っていったのだった。




 その日の晩。暁は水蓮を連れて、食堂にやってきた。


「その子、誰なんですか!? もしかして……今度こそ、本当に隠し子ですか!?」


 結衣はそう言って暁の隣にいる水蓮の前に来る。


 そういえば、シロが来た時も同じようなことを言われたようなと暁はふとそう思った。


「って、いやいやいや! だから隠し子じゃないって!」

「あははは!」


 それから結衣は目の前にいる小さな少女に、


「お名前は何というのですか?」


 と笑顔でそう問いかけた。


 そして水蓮はニコッと微笑んで、


「スイの名前は、最上水蓮です。よろしくおねがいします!」


 と元気にそう言った。


「水蓮ちゃんって言うのですね!! なんだか……かわゆすぎなのです!! まさに水蓮ちゃんしか勝たん、ですね!!」


 結衣は興奮しながら、ぴょんぴょんと跳ねながらそう言った。


 そんな結衣の様子が気になったのか、結衣の後ろから織姫が顔を覗かせる。


「結衣さん、どうしたんですか?」

「織姫ちゃん! 見てください! この子、先生の隠し子の――」


 結衣の冗談で言った『隠し子』という言葉を聞いた織姫は、鋭い目つきで暁を見た。


 そんな目つきで見ないでくれと暁は、冷や汗をかく。


「だ、だから隠し子じゃなくて!!」

「最っ低ですね!!」


 そう言って、織姫は暁たちの前から去っていった。


「あははは。ごめんなさい、先生……」


 結衣はそう言って申し訳なさそうな表情をしていた。


「まあ、またあとで織姫にはフォローしておくよ……じゃあ水蓮、ご飯にしようか!」

「うん♪」


 それから暁は水蓮と結衣と共に夕食を楽しんだ。




 ――夕食後。


 食堂で水蓮と共に片づけをする暁。


「先生、これどーぞ」


 そう言って拭いた皿を暁に渡す水蓮。


「ありがとうな! 助かるよ、水蓮」


 暁は水蓮から皿を受け取り、その皿を食器棚にしまった。


「これで全部だな! 水蓮のおかげでいつもより早く終わったよ! ありがとうな」


 そう言って暁は水蓮の頭を撫でた。


「うふふふ。先生の手、あったかい。パパみたい」


 水蓮は嬉しそうに微笑んでそう言った。


「水蓮のパパはどんなパパだったんだ?」

「あのね、スイのパパはね! あ……えっと」


 水蓮はそう言って俯いた。


 暁はそんな顔を見て、水蓮と同じ目線になるようにしゃがみ込むと水蓮の顔をまっすぐに見た。


「やっぱり何でもない。今は俺が水蓮のパパの代わりみたいなもんだからな」


 そして水蓮は何も言わず、暁に抱き着いた。暁はそんな水蓮の頭をポンポンと叩き、微笑んだ。


 きっと何か理由があるんだよな……だから今は話せなくても、いつか――とそんなことを暁は思ったのだった。


「じゃあ部屋に戻ろう、水蓮?」

「うん!」


 それから暁は水蓮と共に自室へと帰っていった。

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