第53話ー⑥ 風向き
それから数日。ネットの書き込みはどんどん過激になっていく。
『はちみつとジンジャー』は解散しろ、スキャンダルがあるやつは音楽なんてやるななど……好き勝手なことを書かれ放題だった。
しおんはその書き込みを見るたびに反論しようとするも、今は耐えるときだから――と真一は苦しそうな顔をしてしおんを止めていた。
そんな真一を見たしおんは、きっと真一の方が辛いだろうと思い、素直に真一に従ったのだった。
そんなことが続いていたある日のこと、しおんは自室のベッドでふとあやめたちのことを考えていた。
『こんなことになって、絶対あやめも迷惑だよね』
『『
ネットに書かれていた言葉を思い返し、しおんの表情は暗くなる。
あやめは俺や真一に対してどんなことを思っているんだろう。やっぱり迷惑だって思っているのだろうか――
そしてしおんは、最近あやめからの連絡がないことに気が付く。
もしかして俺、避けられているのか?? やっぱりあやめにとって俺たちは迷惑、なのか――とそんなことを思っていると、SNSで一通の通知が入る。
「『ASTER』の緊急会見を動画配信?? とりあえず、真一にも知らせておくか」
それからしおんは真一の元へ向かい、その場で話し合った結果、2人でその会見を見ることにしたのだった。
『ASTER』が動画サイトを通じて、緊急会見をするとSNSで拡散されてから数時間後。予約された動画のページを開始時間ギリギリに開いたしおんは、真一と共にあやめたちの会見の開始を待っていた。
「あやめたち、何の話をするつもりなんだ……」
「さあ。でもネットの噂のことに対してなんだろうね」
「そう、だよな……」
浮かない顔をするしおん。
「なんでしおんがそんな顔をするの?」
真一はしおんの顔を覗き、そう言った。
「いや。あやめたちが俺たちに対して、どうコメントするのかなって」
「さあね。それはこれからわかることなんだから、変な妄想せずに待っていたらいいんだよ」
そう言ってあっけらかんとする真一。
「あ、ああ」
本当はお前が一番不安なんじゃないのか――?
真一を見たしおんはそんなことを思っていた。
でもそれを見せないのが真一の強さであり弱さでもある。何があっても俺は……俺だけは真一の味方でいよう――
しおんは画面に視線を移し、会見が始まるのを待った。
そして定刻になると画面に『ASTER』のメンバーが映し出された。それから頭を下げる『ASTER』のメンバーたち。そして再び顔を上げると、あやめがそのまま話を始めた。
『本日はこの緊急会見をご覧いただきまして、誠にありがとうございます。今回は今、ネットで問題になっている噂の件での会見とさせていただきます。なお、そのほかのご質問にはお答えしかねるので、何卒よろしくお願いいたします』
あやめはそう言って再び頭を下げた。そして顔を上げて、話を続ける。
『一連のネットの噂ですが、僕は『はちみつとジンジャー』の存在が迷惑だなんて思った事はありません』
あやめははっきりとした口調でそう告げる。
『僕の兄……しおんがいつも言っているんです。『真一は本当にすごい奴だ』『俺一人じゃ無理でもあいつがいてくれるなら』って』
微笑みながらあやめはそう答える。
『楽しそうにそう語るしおんを見ていて、真一さんが噂にあるような人物だとは思えません。本当の真一さんを知るには、『はちみつとジンジャー』の曲を聴くのが一番だと思います。
彼の、彼らの音楽には心が宿っています。とても温かく、優しい心が。だから僕はしおんの信じる真一さんを信じています。それに、彼らは僕たちのライバルですから!』
そして真剣な表情になるあやめ。
『誰がこんな噂を流しているのかはわかりませんが、こんなことは金輪際やめていただきたいです。僕ら『ASTER』と『はちみつとジンジャー』の道を、未来を奪わないでください』
そう言って頭を下げるあやめ。続いて頭を下げるメンバーたち。
そしてあやめは顔を上げると、
『僕たちの夢は、まだまだ始まったばかりです。これからも『ASTER』と『はちみつとジンジャー』の応援をよろしくお願いいたします! それでは会見は以上となります。最後までご覧いただき、ありがとうございました』
そう言って笑った。
『ASTER』の会見を見終えたしおんと真一は、何も言わずにスマホの画面を見つめていた。
『ASTER』は俺たちのことをそう思っていたのか――。
そう思うと、言葉にならない感情が湧き出てくるのを感じているしおん。
「真一、お前はやっぱり一人じゃないってことだな! 俺以外にも真一のことを信じているやつがいるってことだろ」
しおんが笑顔で真一にそう告げると、
「別に、僕はしおんがいてくれれば……あ、いや。何でもない」
真一はそう言って口を押える。
「えー? なんだって??」
しおんはニヤニヤしながらそう言った。
「う、うるさい!! ほら、もう練習するよ? いつまでも『ASTER』に負けてられないから」
「へいへい」
それから真一としおんはいつものようにお互いの音を合わせるのだった。
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