第52話ー⑧ 青春
「じゃあ今度はライブパートですね! 屋上へ行きましょう!!」
そう言って意気揚々と部屋を出て行こうする凛子に、「おい!」としおんは静止の声を掛ける。
「なんですかあ??」
「凛子? 話と違うじゃないか??」
「まあ楽しく取材ができたからいいじゃないですか☆ それに、しおん君の自然の反応が見られて面白かったですし」
ニヤニヤとそう答える凛子。
「くっそおお! 真一は冷静に対応していたけど、もしかして凛子とグルなのか??」
しおんは悔しそうな顔をして、真一の方を見た。
「いや。でも凛子のことだからきっと何かを仕掛けてくるだろうなとは思っていたからね」
「さすが真一君です! しおんくんもこういうところを見習ってくださいよ?」
「はあ!!?」
「まあまあ。次はライブだろう? そこで感情をぶつけたらいいいじゃないか!」
暁はしおんをなだめるようにそう言った。
「そうですね……。おい、凛子! 俺の熱いパフォーマンスをしっかりと目に焼き付けろよ!」
「ふふふ♪ 楽しみにしていますねえ☆」
それから暁たちは屋上に場所を移した。
屋上に着くと、しおんと真一はステージの上で準備をしていた。そしてその様子を少し離れたところから見守っている暁。
そしてそんな暁の元に凛子がやってきて、暁にしか聞こえない声で、
「カメラ回してください」
と楽しそうにそう言った。
「え。でも……」
「こういう準備の時間って、素が出るから貴重なんです。2人しか知らない温度感とか結構需要があるんですよ? あー、ほらほら!!」
「あ、ああ」
そして暁は凛子に言われるがままカメラを回した。
ギターの音を確認するしおんの隣に行く真一。
「ギターのチューニング済んでる?」
真一は確かめるようにそう問いかけた。
そしてしおんはその問いに笑顔を作り、
「ああ、大丈夫だ! そっちこそ喉の調子はどうだ?」
真一にそう尋ねた。
「絶好調。あやめのドリンクのおかげだね」
「俺が! 作ったんだけどな!!」
「あーはいはい」
「っておい!!」
「じゃあそろそろ始めようか」
そう言って真一はマイクを持ち、定位置に着く。
「まったく、真一は……」
そう言いながら、しおんも定位置に着いた。
「それでは~! 2人の準備が整ったという事で! 『はちみつとジンジャー』のスペシャルライブです☆ 『風音のプレリュード』。どうぞ、お楽しみください!」
凛子の掛け声の後に、しおんのギターイントロが入る。そしてそこに真一の歌が交わっていく。
やっぱり2人の奏でる音楽は最高だな――。
暁は目の前で2人の熱いライブを見て、そう感じていた。
そして暁は、前に真一が『自分の歌は復讐の歌だ』と言っていたことを思い出た。
あの時しおんが言っていた通りで、そんなことあるわけないと思った。だってこんな楽しそうに歌う真一が復讐だけのために歌っているなんてありえないだろう――。
そう思いながら、笑顔で2人の音を聴く暁。
「本当に楽しそうだよな。それにさ――」
間違いなくしおんも真一も音楽への想いは本物だ。俺はこの二人が紡ぐ歌をこれからもずっと聴いていたいよ――と2人の音楽に触れた暁はそんなことを思った。
そして演奏を終えた『はちみつとジンジャー』は、
「「ありがとうございました!」」
そう言って頭を下げた。
そこで暁はカメラを止める。
「うんうん☆ すごく良い感じになりましたね! これなら人気も爆上がり間違いなしですねえ」
「俺もそう思ったよ!! 2人の音楽への熱い思いが伝わったよ! いやあ、本当に感動した!」
「あ、ありがとうございます!」
しおんは嬉しそうにそう答えた。
そして真一はとても満足そうな顔をしていた。
「じゃあテレビで放映される前に、もう一つやることがあります!!」
「やること?」
凛子の言葉に首をかしげるしおん。
「はい! 宣伝用のSNSの開設です! テレビで紹介されてもしおん君たちのことを知る術がなければ、時間と共に忘れ去られていくものです」
「へえ。そうなのか……」
もうそこまで考えているなんて、さすが子供の頃から芸能界にいるだけのことはある――と暁は凛子の言葉に感心していた。
「じゃあ今日からさっそくよろしくお願いします☆ じゃあ私はこのテープをプロデューサーさんに送ってきますね!」
そして凛子は暁が持っていたカメラを取ると、部屋に戻っていった。
「あいつ……俺たちのためにそこまで考えてくれていたのか」
しおんは凛子が出て行った扉を見つめてそう呟いた。
「期待に応えないとね、しおん? ライバルなんでしょ?」
「おう! じゃあさっそく俺たちもやるべきことをやらないとな!」
しおんは笑顔で真一にそう言った。
「ああ、そうだね。先生、今日はありがとう」
「ありがとうございます!!」
そう言って2人は屋上を出て行った。
「いやあ。青春だねえ」
暁はそんな3人を見ていて、そんなことを思ったのである。
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