第52話ー⑤ 青春

 ――数日後。


 凛子からプロデューサーのゴーサインが出たと報告を受けた暁は、さっそく所長に連絡をすることにした。


「今度こそ、OKって言わせてやるんだ」


 そう呟いて暁はスマホの発信ボタンをタップした。


『はい』

「所長。お疲れ様です。暁です」


 暁は緊張した声でそう告げる。


『ああ、お疲れ様。今日はどうしたんだい?』

「先日の続きを、と思いまして」

『密着取材だったかな』

「はい……生徒たちのデータを読みました。全員分」

『そうか』


 淡々とそう答える所長。


 その短い返答に、所長は何を思ったのだろう――と思う暁。


 それから暁は首を横に振ると、


 いや。今はそんなことを心配するんじゃなくて、俺の覚悟を伝えるんだ――!


 そう思い、自分の気持ちを口にする。


「そのうえで、やっぱり真一たちの願いを叶えたいんです!」

『……それで、傷つく生徒がいるとしてもかい?』

「そうはさせません。俺が生徒たちを守ります。そして真一やしおんの夢も!!」

『ははは。欲張りだね、君は』


 確かに、所長の言う通りかもしれないな――と暁はそう思いながら笑った。


『君がそう言うんだから、きっと何か策があるんだろう。……わかった。じゃあまず、今回のことをどう対応するのか教えてくれるかい?』

「は、はい!!」


 それから暁は凛子が提案した内容を所長に説明した。


『そういうことなら今回は認めるよ。ふふふ。どんな番組か楽しみだ』

「ありがとうございます!」


 そして通話を終えた暁はスマホを机にそっと置いて、


「よっしゃー!」


 そう言いながら、両手を天井に向かって突き上げていた。


「早速真一たちに知らせるか!」


 そして暁は職員室を飛び出して、真一たちの元へと向かった。



 * * *



 しおんの部屋。真一としおんが今日も歌の練習をしていた。


「あれから何の音沙汰もないけど、どうだったのかな」


 しおんがギターのチューニングをしながらそう言った。


「何も言ってこないってことは、まだ可能性があるってことでしょ。そのうちにバタバタしながら部屋に乗り込んで――」


 真一がそう言っていると、突然部屋の扉が開く。


「真一、しおん! いるかあ!!」

「先生、ノックぐらいしてよ」


 真一はそう言いながら、突然現れた暁に冷たい視線を送る。


「ああ、悪い……」


 暁はそう言いながら、頭をかいていた。


「それでどうしたんですか? そんなに慌てて」

「ああ! この間のテレビの件だけど、所長からOKをもらったぞ!」


 暁が満面の笑みでそう告げると、


「マジですか!? よっし! やったな、真一!!」


 しおんはそう言ってニコッと微笑み、真一の方を見た。


「へ、へえ。まあ大丈夫だろうとは思っていたけど」


 そして真一はそう言いながら、小さな拳を作っていた。


「おい~、もっと素直に喜べよ」


 しおんはニヤニヤとそう言いながら、真一をつついた。


「う、うるさい!!」


 真一は顔を赤くしながら、つつくしおんの手を払う。


「じゃあ、詳しい打ち合わせはまた凛子を含めて進めよう」


 暁がそう言うと、真一としおんはお互いの顔を見合わせて、


「わかった」

「先生、ありがとうございます!」


 そう言って暁に微笑んだ。


「それじゃあ、俺はこれで。邪魔して悪かったな。練習頑張れよ!」


 そしてしおんの部屋を出て行く暁。


「なんだか嵐のように去っていったな」

「あの人は、いつもあんな感じだよ」


 真一はそう言って笑った。


「ははっ。そうなんだな!」

「それじゃあ、練習を再開しよう。せっかくテレビに出られるんだ。名前が売れることは間違いないでしょ。それまでに今よりもっと上達していないと」

「ああ! ヘタクソなんて言わせないぜ!」


 それからしおんたちは練習を再開した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る