第52話ー① 青春

 食堂で新曲について話し合う真一としおんの前に凛子が現れた。


「ちょっといいですかあ?」


 ニヤニヤと笑う凛子を少し不審に思うしおん。


「今日は、何を企んでやがる……」


 そう言って疑いの目を向けるしおん。


「ひどいですねえ。何も企んでないですよお。ただ2人に良いお話を持ってきただけですう」

「良い話?」


 凛子のその言葉に反応する真一。


「騙されるな、真一! こいつが俺たちに良い話なんてもってくるわけが――」

「しおん君にだけならともかく、真一君がいるのなら話は別ですう」

「はあ?? 喧嘩売ってんのか、コラア?」


 しおんの言葉を聞き、


「あらら~そう聞えたのなら、そうかもしれませんねえ」


 凛子はニヤニヤとそう答えた。


「今日こそは許さねえぞ!」


 しおんがそう言って立ち上がると凛子はそのしおんの正面に立って、


「無能力者がS級の私に勝てますかねえ?」


 にっこりとそう告げる。


「ぐっ。そうだった……」

「はあ。そろそろ夫婦めおと漫才は終わりで良い?」


 呆れた声でそう言う真一。


「「夫婦めおとじゃないから!!」」


 そう言いながら、息ぴったりじゃないか――と2人の顔を見て思う真一。


「はいはい。それで? いい話って?」


 真一にそう言われて、はっとする凛子。そして左手を口元に当てて、


「あは☆ そうでしたねえ」


 そう言って微笑んだ。


「ったく。忘れてんじゃねえよ!」

「しおん君が悪いんですよお? いちいち突っかかるから」

「はあ?」


 そう言って視線の先で火花を散らすしおんと凛子。


「ああ、もう! 何なの!! しおんのことはいいから続けて、凛子!」


 話が進まないことに少し苛立った真一は、声のボリュームを上げて凛子にそう告げる。


「す、すみません! それで良い話って言うのは、私の知り合いのプロデューサーさんが2人に密着取材をさせてほしいってことなんです」

「密着取材?」


 真一は首をかしげてそう尋ねた。


「はい。そしてその取材内容をテレビで放映したいらしいそうなんです」

「テレビで、か……」


 そう呟いて、俯く真一。


(メディア進出は確かに必要だとは思うけど、でも……)


「へえ。いいじゃねえか! 俺たちの名前を売るにはもってこいだぜ!」


 俯く真一とは正反対に乗り気なしおん。


(しおんはやる気みたいだね)


 そう思いながら、しおんを見つめる真一。


「ええ、私もそう思います! これはチャンスです! でも強制はしません。2人で話し合って答えを出していただければいいので」

「真一、出ようぜ! テレビだぞ!! テレビ!!」

「う、うん」


 そう言って考え込む真一。


「何か問題があるのか?」

「いや。密着するってことはさ、ここに……この施設に部外者が立ち入るってことでしょ。それってどうなのかなって」

「あ、そうか。それは確かに……」


 しおんは顎に手を当てて首をひねる。


「とりあえず一回先生に相談してみようか。それからまた考えればいい」

「ああ、そうだな!」


 しおんが笑顔でそう言うと、


「2人にとっていい方向にいけばいいですねえ」


 凛子も満面の笑みでそう言った。


「うん。ありがとう、凛子」

「いえいえ! しおん君も私に言う事がありませんかああ?」


 凛子はしおんの目の前で頭を傾けながら挑発するようにそう言った。


「くそっ。自分から言われると無性に腹が立つな!! でも今回は素直に嬉しいぜ……ありがとな!」

「ふふふ。では、良い返事を待っていますね☆」


 そう言ってから凛子は食堂を出て行った。


「真一! これはチャンスだ!!」


 嬉しそうなしおんとは反対に浮かない顔の真一。


「どうしたんだ? 嬉しくないのか?」

「そんなことはないよ。テレビに出れば、少しは名前が売れる」

「ああ」

「でもそれと同時に、僕たちの過去も世間に公開される可能性があるってこと」

「俺たちの過去……」


 そう言って表情が曇るしおん。


「うん。能力覚醒時に引き起こした事件やそのほか諸々ね」

「……そうだけど、でもいつかはばれることだろう? だったらまだ売れる前にそう言う厄介ごとは公表された方がよくねえか?」


 しおんは真一に微笑みながらそう告げた。


「そう、だね。……しおんのくせにたまにはまともなことを言うんだ」

「くせには余計だ!! 俺は大した過去でもないからいいけど、真一はなんだか根深そうだよな。……この間も復讐って言うくらいだし」

「ははは。そうだね。僕の過去の方が少し厄介かも」


 俯く真一。


 そんな真一の様子を窺いながら、


「その……聞いてもいいか? 真一の昔の話を」


 そう告げた。


 ――しおんになら、僕の過去を話してもいいのかもしれない。


 そう思った真一は、「いいよ」と言って頷いた。


「じゃあここだとあれだし、俺の部屋でいいか?」

「ああ、助かる」


 それから真一はしおんと共にしおんの自室へと向かった。

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