第51話ー③ 俺たちの歌

 ――職員室。


 暁は以前真一の持っていた音楽プレイヤーで見た『Brightブライト Redレッド Flameフレイム』が気になり、その動画を見ていた。


「すごいな……かっこよくて熱くて。黙って俺についてこいって言うのが伝わる……。こんな曲を聞かされたら、音楽やりたいって思うのは自然なことかもしれないな」


 音楽に詳しくない暁でもそのバンドのすごさはわかった。圧倒的な歌唱力、そしてステージパフォーマンス。そのバンドから目が離せなかった。


 でもなんでだろう。こんなに熱くてかっこいい歌詞なのに、なぜか孤独を感じてしまうのは――。


「なんだか真一に似ている気がする」


 暁にはそのバンドのボーカルが、孤独でも俺はなんでもやってやる、誰もいらない、俺が俺であればいいとそう告げているように見えたのだった。


「でもこのバンドのボーカルと違って、今の真一は一人じゃない……」


 だって今はしおんがいるから――


 そんなことを思っていると、職員室の扉が開いた。


「先生、いますか?」

「ん? ああ、しおんか! どうしたんだ?」


 そう言って、暁は動画を止めてしおんの方に目を向ける。


「ちょっと話があって。って休みなのに仕事してるんですか?」

「ああ、いや。違うよ。前に真一が好きって言っていたバンドがどんな感じなのかと思って動画を見ていたんだ」

「それって!! 『Brightブライト Redレッド Flameフレイム』ですよね!! 俺も好きなんすよー!! 一緒に観てもいいっすか!!」


 そう言って、前のめりに目を輝かせて暁に詰め寄るしおん。


「あ、ああ。もちろん」


 そして暁はしおんと共に『Brightブライト Redレッド Flameフレイム』の動画を観ることになった。


「この時の曲がもうすごく上がるんですよ! ここ!! ここのギター半端なくないですか!! いやあ。本当にかっこいいなあ」


 楽しそうにそう語るしおんを見て、暁は思わずくすっと笑う。


「え!? なんかおかしかったですか!?」

「いいや。本当にしおんも音楽が好きなんだなって思って。もしかして真一もそんな顔をするのか?」

「うーん。たまに歌っているときは楽しそうな顔をしていますね。普段からあまり笑わないから、たまに見せる笑顔に俺も笑っちゃう時がありますけど」


 真一の笑顔、か……どんな顔を見せてくれるんだろうな――そう思いながら、微笑む暁。


「俺もいつか見てみたいよ、真一の笑顔をさ」

「きっと見られますって! 真一から音楽を奪わない限りは絶対にね」

「それは楽しみだな! ……そういえば、しおん。何か話があって来たんじゃなかったか?」


 暁がそう問いかけると、しおんははっとした顔をして、


「そうだった! そっちが本題だった!」


 そう言って立ち上がる。


「あははは。それでどうしたんだ?」

「先生! 俺もとうとう能力が無くなりました!!」

「何だって!? しおんもか!!」

「はい!」

「じゃあ今度、研究所で検査をしないとな!」

「よろしくお願いします!!」


 それからしばらく暁たちは『Brightブライト Redレッド Flameフレイム』の動画を楽しんだのだった。


 そして数日後、研究所で検査を受けたしおんは無事に能力の消失を確認したのだった。



 * * *



 男子生活エリア共同スペースにて――。


「真一君?」


 共同スペースのソファに寝転がっていた真一に、偶然通りかかったまゆおが声を掛ける。


「何?」


 真一は身体を起こしながら、そっけなくまゆおに返した。


「別に何かあるわけじゃないけど……」


 そう言いながら、真一の隣に座るまゆお。


「何かあるわけじゃないなら、いちいち話しかけてこないでくれる?」

「そんな冷たいなあ」


 そう言って笑うまゆお。


 それから真一は何も言わず、両手を頭の後ろで組んでソファにもたれた。


「ただなんか、僕たちの能力ってどうなるのかなってそう思っただけ。しおん君も結衣ちゃんも能力が無くなって、そのうち真一君も能力が消失して……僕だけがこのままなんてこともあるのかななんて。ははは……」


 まゆおはそう言いながら、愛想笑いをしていた。


「……そんなの僕だって同じことを考えたさ。僕だけがこのままなんじゃないかって。でもどうなるかなんてまだわからないでしょ。僕はここを出て、夢を叶える。それだけだよ」


 真一は天井を見ながら、そう言った。


「夢、か……確か世界一のミュージシャンになる! だっけ? 本当にすごいよね」

「それだけじゃないけどね。でもそういうこと」

「ははは。真一君は強いなあ。僕はやっぱりいろはちゃんがいないとダメなのかもしれない。1人だと、すぐ弱気になる……」


 まゆおは悲しそうに笑った。


「別に1人じゃないでしょ」

「え?」

「この施設にいる間、まゆおは1人じゃないってこと。まゆおはクラスメイトのことをいつも仲間がとか家族がとか言ってるじゃないか。しつこいくらいにさ」

「せっかくいいこと言ってくれているのに、最後の一言で台無しだよ」


 そう言ってクスクス笑うまゆお。


「それが僕だからね」

「そうだったね。はあ。なんだか1人で悩んでいるのが馬鹿馬鹿しくなったよ。ありがとう、真一君」

「別に。感謝されるようなことは何もしてない。僕は僕が思った事を口にしただけ」


 真一は表情を変えず、淡々とそう答えた。


「うん。そうだったね」

「僕のこと、わかったつもりでいるならやめてよね」

「またそういう事を言うんだから……」

「本当のことだよ。じゃあ、僕は部屋に戻るから。おやすみ」


 そう言って真一は立ち上がって、自室に向かって歩いていった。


「おやすみ! また明日ね!」


 まゆおはそんな真一の背中に声を掛けたのだった。


「僕も部屋に戻ろう」


 そしてまゆおも自室に戻ったのだった。



 * * *



 ――翌朝。食堂にて。


「おはよ、真一!」


 しおんはいつものテンションで真一に声を掛ける。


「おはよ」


 そして真一もいつものようにそっけなくしおんに返した。


 それからしおんは、いつものように真一へ新曲のことやこれからのカバー曲の相談を一方的に伝えていた。


 そんなしおんの話を半分くらい聞き流しながら、真一は朝食を摂る。


「じゃあ授業後、また俺の部屋で練習な!」

「いつも待つのは僕なんだから、早めに終わらせてよ」

「わーってるって!」

「はあ」


 そしてしおんたちは授業のために教室へ向かったのだった。


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