第50話ー⑥ おかえり
夕食後、暁はいつものように一人で食堂の後片付けをしていると、そこへ奏多がやってくる。
「手伝いますよ、先生」
「いやいや。奏多は客なんだからゆっくりしていてくれよ。ここは俺がやるからさ」
そして暁の隣に立つ奏多。
「お気になさらず。私がやりたくてやっていることなので。それにこうやって2人並んで食器を片付けていると、なんだか新婚みたいじゃないですか?」
「し、新婚!?」
そういえば、さっき弦太が――そう思いながら、奏多の言葉に動揺する暁。
「ふふふ。いずれはそうなりますから」
そして暁は止めていた手を動かし、
「……そう、だな。そうだといいなと俺も思っているよ」
顔を赤くして、笑いながらそう言った。
「あら、プロポーズですか?」
「そんなわけないだろう! するときはちゃんとカッコつけさせろって」
「ふふふ。それは楽しみにしておりますね!」
それから片づけを終えた暁たちは食堂を後にする。
「そういえば、今夜は織姫のところで泊まるんだっけか?」
「ええ、そうですよ。あ、もしかして俺のところで一緒に! とかそういうつもりですか?」
意地悪な笑顔で暁にそう言う奏多。
「違うよ! た、ただ確認しただけだって!!」
「本当ですかー??」
「ほ、本当だよ!!」
「うーん。それはそれでちょっと残念ですね」
「残念がるなよ! 俺だって、本当はもっと奏多と……」
急に恥ずかしくなった暁は、その先の言葉を言えずに目を伏せた。
「ふふふ。でもこれからはすぐに会えますから。だから今日は諦めます! じゃあおやすみなさい!」
そういって奏多は女子の生活スペースへ向かっていった。
「ああ、おやすみ!!」
暁はそんな奏多の背中にそう言った。
「俺も部屋に戻るか」
それから何かが起こることもなく夜が更けて、朝になった。
翌日、食堂にて。
「おはよう」
暁がそう言いながら食堂に入ると、奏多と織姫が朝食を摂っていた。
「おはようございます、先生!」
「お、おはよう、ございます」
奏多はいつもの笑顔で、織姫は頬を赤くしながら暁にそう答えた。
「休みなのに、奏多も織姫も早いな!」
「いつもなら早朝練習をしている時間ですからね!」
「そういえば、そうだったな。留学先でも続けていたのか?」
「ええ。私の日課みたいなものですから」
奏多はそう言って微笑む。そんな奏多の顔を見た暁も、「そうか」と言って優しく微笑んでいた。
そして織姫は2人のその会話を黙って見つめていた。
「先生も一緒に食べましょ! いいですか、織姫??」
「え、ええ」
「ありがとな、織姫!」
「はい……」
それから暁たちは3人で食事を楽しんだのだった。
食事を終えた奏多はそろそろ迎えが来ると言ってエントランスゲートへ向かうことになり、暁はそんな奏多をエントランスゲートまで見送りに来ていた。
先ほどまで暁たちと一緒だった織姫は奏多に気を遣ったのか、見送りには来なかった。
織姫曰く「私にもやることがある!」らしい。もしかしてまた弦太に会うかもしれない可能性を考えたってこともあるのか――?
そうこう思っているうちに、暁たちはあっという間にエントランスゲートに到着した。
「先生。今回もありがとうございました。とても楽しい時間でした」
そう言って微笑む奏多。
「ああ、俺もだよ。……それと、だな。今回ちょっと思ったことがあって」
「? なんですか?」
奏多は首をかしげながら、そう言った。
そして暁は頬を掻いて、
「いや、その。今更だとは思うんだが、俺はもう奏多の担任教師じゃないから『先生』って呼び方はそろそろ卒業でもいいんじゃないかって思って……」
照れながらそう言った。
「そういえば、そうですね!! では、なんとお呼びすればよろしいでしょう?」
「え!? ま、まあ今後を見据えて……下の名前、とか?」
(俺ってば、何言ってんだよ!!)
「うふふ。そんなに照れながら言わないでくださいよ。じゃあそうですね……これからは『暁さん』とお呼びしましょう!」
「え、キリヤとかまゆおは呼び捨てなのに、俺だけ『さん』づけなのか!?」
少しだけ不満そうな顔で奏多にそう告げる暁。
「でもその方が旦那様っぽくないですか?」
そう言いながら万遍の笑みをする奏多。
(だ、旦那様って!? いや嬉しいけど、でも……いやいやいや。奏多がせっかく提案してくれたんから、それでいこう!!)
「ま、まあ他と違うって言うのは、なんだか特別な感じもあるし。それでいいよ!」
「うふふ。それじゃ、また。暁さん」
「ああ。またな、奏多! 勉強頑張れよ!」
「暁さんもお仕事頑張ってくださいね!」
奏多はそう言ってから、暁の頬にそっと口づけをする。
「そ、そういうのは前もって言ってくれよ! ドキッとするだろう!!」
「ふふふ」
奏多は頬を赤らめながら、嬉しそうに微笑んでいた。
相変わらず、いたずら好きというかなんというか。でもそういうところもひっくるめて、俺は奏多が好きなんだろうな――と微笑む奏多を見て暁はそう思っていた。
「じゃあまた連絡するから」
「はい!」
そして奏多は到着した車に乗り込み、帰っていた。
「奏多、おかえり」
暁は去っていく車を見ながらそう呟き、車が見えなくなってから自室へと戻っていった。
これから奏多とたくさん思い出を作ろう。今まで一緒に過ごせなかった時間を取り戻すために――。
奏多との再会を経て、暁はまた新たな日常を始めていく。
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