第44話ー② 変わらない関係

「先生。とりあえず食堂でもいいですか? 部屋には入れたくないので……」


 暁たちが建物の中へと向かう途中、まゆおは暁にこそっとそう告げた。


「わかった。まゆおに任せるよ」

「ありがとうございます」


 まゆおの態度から察するに、きっと兄とはあまり良い関係ではなかったのだろう。もしかしたら、まゆおの能力覚醒と何か関係があるのかもしれない――。


 暁はそう思いながら、真顔で隣を歩くまゆおを見つめたのだった。


 それから食堂に着いた暁たちは中央あたりにあるテーブルに着席した。


「まゆお、久しぶりだな。元気にしていたか?」


 まゆお兄はニコニコとまゆおにそう問いかける。


「うん……武雄たけお兄さんも元気になったみたいでよかったよ」


 まゆおは俯いたまま、武雄にそう答えた。


「まあね。あの時は死んだかと思ったよ! まさかまゆおの能力のせいであんな大けがするなんてさ」

「……」


 まゆおは俯いたまま、何も答えなかった。


 武雄の言葉を聞いた暁は、自分が知らなかったまゆおの過去に驚いていた。


 まゆおは自分の能力で兄を傷つけていたなんて。もしかして白雪姫症候群スノーホワイト・シンドロームの覚醒のきっかけって兄弟関係なのか――


 そんなことを思いつつ、俯くまゆおを見つめる暁。


「でも、俺はもう気にしていないよ。傷も塞がったし、今は普通に生活もできているしね。だから今日は、仲直りに来たんだ」


 そう言って、笑う武雄。


「仲直り……?」


 まゆおはゆっくりと顔を上げる。


「ああ。きっとまゆおは昔のことを気にしているかなって思って。俺も悪いことをしたなって、反省したんだよ」

「兄さん……」

「先生……ちょっとまゆおと大事な話がしたいので、少し外してもらっていいですか?」


 武雄の笑顔を見た暁は武雄の言葉を信じ、この様子なら大丈夫だろうと、


「そうだな。わかった」


 そう言って立ち上がった。


 するとまゆおも立ち上がり、


「先生、少しだけいいですか?」


 と暁にそう言った。


「あ、ああ」

「兄さんもいいよね?」

「もちろん」

「ちょっとこっちに……」


 そう言って、まゆおは暁を食堂の外へと連れ出す。


 そして食堂を出たすぐの廊下でまゆおは止まり、暁と向かい合うように立った。


 暁は少し様子がおかしいまゆおに首をかしげて、


「どうしたんだ? せっかくの仲直りのチャンスなんだろう?」


 まゆおにそう尋ねた。


「……先生って、兄さんに自己紹介はしましたか?」

「え? うーん……そういえばまだだったな」

「そう、ですか」

「でもそれがどうしたんだ?」

「いえ。何でも、ないです……」


 そう言って不安そうな顔をするまゆお。


「そう、か」


 まゆおの態度から、明らかに何か不安に思っていることが分かった暁だったが、きっと答える気はないんだろう――となんとなくそう察したのだった。


「まあ何かあれば、すぐに言えよ? 俺にできることなら、何でもするからさ」


 暁はそう言って、まゆおに笑顔を向けた。


「ありがとうございます」


 まゆおは暁のその笑顔にほっとしたのか、不安な表情が少しだけ和らいだように見えた。


「じゃあ、僕は兄さんの所に戻りますね」

「おう。仲直り、できるといいな」

「はい!」


 そしてまゆおは食堂に戻っていった。


 でもまゆおはなんであんなことを聞いてきたのだろう――。


 暁はそんな疑問を抱きながら、職員室に向かったのだった。

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