第9.5話ー① 聖夜のお祝い

 12月になったある日の事―― 


「この施設ではクリスマスイブに何か特別なことをしたりするのか?」


 暁は、この日も部屋に入り浸って植物の世話をしているキリヤにそう尋ねた。


「特別なことか……。うーん。夕食にケーキが出るとかそれくらいのことかな。でもいきなりどうしたの?」


 そう言ってキリヤは首を傾げる。



「いや、子供ってクリスマスが好きだろう? だから、政府や研究所の人たちがここの生徒たちのために何か催し物を用意するのかなと思って――」


「僕たちはクリスマスではしゃぐほど、子供じゃないよ!」



 キリヤは頬を膨らませながら、ぷりぷりとそう言った。


「そ、そうか! ごめんな、そうだよな!」


 キリヤたちは未成年でまだ子供だといっても、確かに高校生にもなれば、クリスマスにはしゃぐなんてことあるはずがないか――


 暁は認識を改めなくちゃなと思ったのだった。


「ああでも、マリアは喜ぶかも。マリアはクリスマスイブが誕生日だから」

「へえ、そうか。マリアは誕生日なのか――じゃあマリアの誕生日会でもやるか!」

「いいね、それ! 絶対マリアは喜ぶと思う!」


 キリヤは、自分のことのように喜びながらそう言った。


「でも、祝うとは言ったものの――何からしたらいいものか」


 そう言って暁は考えを巡らせる。


 クリスマスイブで、誕生日か……そういう時って、どんなお祝いをしてもクリスマスのおまけみたいにみえてしまうよな――


「なあ。去年の誕生日まではどうやってお祝いしていたんだ?」


 暁は隣で考えているキリヤにそう尋ねる。


「去年までか。えっと……プレゼントを渡して、『お誕生日おめでとう!』って言って終了だったかも!」

「え……本当にそれだけか? キリヤって本当にマリアのことを大切に思っているのか??」


 暁は困惑した表情でそう言った。


「日頃の愛情の向け方が違うんだよ! 年に1回の特別な愛情じゃなくて、僕は毎日マリアに愛情を注いでいるの!!」


 むきになってそう答えるキリヤ。


「なるほど、そうかあ」


 暁はむきになるキリヤを微笑ましく思いながら、「うんうん」と頷く。


「何、その反応!?」

「はっはっはっ」


 まあとりあえず。今までは何もやってこなかったわけだな――


 そう思いながら、暁は再び考えを巡らせた。


 マリアが悲しい思いをしていたわけじゃないみたいだし、それでもよかったわけだけど――


 それから暁は、以前生徒たちから祝ってもらった誕生日の時のことを思い出す。


 俺も生徒たちにお祝いしてもらったし、今度は俺から何かしてやりたいんだよな――


 それから暁ははっとすると、


「恒例のレクリエーションでもやるか!」


 そう言ってニッと笑った。


「あはは! そうだね。先生といえば、もうそれだよね!」


 キリヤもそう言って笑った。


 そしてレクリエーションの方向性を話しあい、表向きはクリスマスの企画という事にして、サプライズでマリアのお祝いをしようということになった。


「マリア、喜んでくれるかな」

「大丈夫さ。きっとな!」

「うん!!」


 それから数日間。暁とキリヤはレクリエーションの準備を進めたのだった。




 ――クリスマスイブ当日、食堂にて。


「みんな揃ったな?」


 暁が食堂にいる生徒たちを見ながら、楽しげにそう言うと、


「もうっ! 早く始めようよ、センセー!」


 いろはは急かすように暁にそう言った。


「ああ、わかったよ! じゃあ――メリークリスマス!」


 暁はそう言いながら、手に持っていたクラッカーのひもを引き、生徒たちも暁に続いてひもを引くと、食堂にはクラッカーの破裂音が響いた。


 その音と共に、この年のクリスマスパーティが始まったのだった。


「やっぱりクリスマスの食事は、いつもと違って豪華でいいねえ!」

「おい! 見ろよ! このチキン、足がついてるぞ!!」

「ほんとだ! アタシも食べる!!」


 いろはと剛はいつもと違う豪華な食事にはしゃいでいるようだった。


 チーズがたっぷりのグラタンに、こんがりと焼かれたチキン。そして色とりどりに飾り付けられたサラダ――


 暁も目の前に並ぶ豪華な食事に目を輝かせていた。


「実家にいた時でもこんなに豪華だったことなんてないのに! すごいな!!」

「先生、こっちにはぷりぷりジューシーなウインナーもありますぞ!」


 結衣はそう言いながら、暁を手招く。


「おおう! どれどれ……」


 暁が結衣の元に行こうとすると、


「ちょっと、先生! 今回の目的のこと、忘れていないよね?」


 キリヤは暁の腕を掴み、その耳元でこっそりとそう言った。


 それからはっとする暁。


「そ、そうだったな……クリスマスディナーに興奮して、つい舞い上がっていたよ」

「もう。しっかりしてよ……」


 キリヤは呆れながら、暁にそう言った。


 でもなあ。せっかくのクリスマスディナーなんだよな――


 そう思いながら、暁はゆっくりとキリヤの方を見て、


「キリヤ……」


 と懇願するようにそう言った。


「はあ。わかった」

「さんきゅ!」


 それから暁は結衣の元へ行き、クリスマスディナーを楽しんだのだった。

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