第5話 デートしよ!

 土曜日の朝、目が覚めると目の前に文乃あやのの顔があった。


「おはよう真喜雄まきお

 めっちゃ笑顔だった。


「おはよう……ていうか、何してんの?」

「真喜雄の寝顔眺めてた」


 ね……寝顔を……なんか恥ずかしいなぁ。

 ていうか、何で居るの? 今日休みだよね?


「ねえ、これ見て!」

 超ご機嫌で語りかけてくる文乃。

「うん?」

 文乃のスマホを覗き込むと、めっちゃ間抜け面した俺が写っていた。


「な、な、な、何してんだよ!」

「盗撮!」

 文乃はグッドサインで悪びれる様子もなく、さも当然の様にそう言ってのけた。


「文乃……お前は盗撮をしにきのか?」

「違う違う、ちょっと今日は言いたいことがあってさ」

 言いたいこと……俺に? いったい何だろう。


「私さ、真喜雄に告白されたじゃん」

「うん」

 ……ていうか、まだそこに触れるんだ。


「でもね、私……なんのプレゼンも受けてないよ?」

「プ……プレゼント?」

「違う、違う、プレゼン!」

 プレゼン……て、

「なにそれ?」

「アピールだよ! 俺と付き合ったら、こんないいことがあるよ〜とか、俺と付き合ったらこんなにも楽しいよ〜とか!」

 ……なにそれ。

 恋人作るのにそんなアピール必要なの?

 ……世知辛すぎじゃね?


「ていうかアピールも何も、お前……秒で無理っていったじゃん」

「違う、違う! アピールは告白前から始まってるんだよ!」

 え……と、文乃は何が言いたいんだ。


「なあ、文乃……俺に分かるように説明してくれよ」

「とりあえず、デートしよ!」

「え?」

 で……デート? 俺、振られたよね?

「嫌なの?」

 また猫撫で声と上目遣い……それは反則だって。


「……嫌じゃない」

「じゃぁ決まりね! 早く用意して!」


 寝起き数分でデートに行くことが決まった。

 デートか……地味に初めてなんだけど、どこに行けばいんだろう。


 身支度を整えて、とりあえず駅前に出た。駅前まで来れば何かあると思ったからだ。


 結果……何もなかった。ていうか、何も思い浮かばなかった。


 どうしよう……このデートって、言うなれば追試みたいな物だよね?

 それなのに、何も思い浮かばないなんて。


 文乃は俺に微笑みかけてくれる……期待してるんだよな。

 なのに俺は……なにも思い浮かばないなんて!


「真喜雄、とりあえずカフェでお茶しない?」

 カフェでお茶……渡りに船だ。

「ああ、そうしようか」


 とりあえず、見た目のお洒落なカフェに入った。


「おー、こんな店出来てたんだね! 知らなかったよ」

 俺も知らなかった。


 俺は格好つけてエスプレッソを、文乃はロイヤルミルクティーとおすすめのパンケーキを注文した。


「真喜雄! 見て! めっちゃ美味しそうだよ! それに大きい! ふかふかじゃん!」


 文乃はパンケーキの大きさにめっちゃテンションが上がっていた。

 俺はエスプレッソのカップの小ささに驚いていた。最初はこれにミルクが入っているのかと思ったが、これが本体だった。


「真喜雄! ヤバい! 真喜雄も食べて!」

 文乃はパンケーキを適当な大きさに切り、


「はい、あーん」

 そして俺の口へ運んだ。


 これは……リア充の証『あーん』じゃないか!

 いいのか? 未来のない、ただの幼馴染みがこんな事をしても。

 躊躇しながらも俺はパンケーキをいただいた。


「どう? 美味しいでしょ?」

「うん……」

 美味しかった。美味しかったと思う。

 でも、緊張でよく分からなかったかも知れない。


「ねえ真喜雄……私達、周りから恋人同士みたいだよね」

 頬を赤く染めながら語りかけてくる文乃。


「……そう見えるのかな」

「見えるよ! だって『あーん』までしたんだよ! むしろ1番イチャコラしてるよ」

 まあ、確かに。


 文乃は神妙な面持ちになり続けた。


「付き合ったらさ……いつか別れが来るじゃん。だからさ、真喜雄とは付き合いたくなかったんだよね」


 えっ……それって、

 文乃も俺が好きって事なのか?


「私……真喜雄とずっと一緒にいたいの」

「文乃……」

「さっ、もう一口食べて、あーん」

 文乃は俺の言葉をさえぎるようにパンケーキを勧めて来た。


 結局緊張で、味は分かったような分からなかったようなだ。


 それより文乃の言葉……別れるのが嫌だから、振ったって事か?


 それって……意味わかんなくね?


 だって、もしそうだとしたら俺が拒絶していたら、どうするつもりだったんだろう。


 ……文乃の言葉の真意を確かめる事は出来なかった。


 でも、文乃の言葉で、文乃の言っていたプレゼンの意味は理解したつもりだ。


 近々答え合わせが必要だ。


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