第257話 ご機嫌
アーニャも、俺の近くにあった椅子に腰かけ、ニコニコとこっちを眺めている。
「どうした? 随分ご機嫌だな」
「ふふ、わかる?」
「まあ、雰囲気でな」
「ナナリーちゃんさ、ほら、前に森の中で戦ってから、ずっとツンツンしてたじゃない? それが、今日はいっぱい、白銀の刃の特訓をしたときみたいにおしゃべりしてくれたから、僕、嬉しいんだ」
「そうか……まあ、お前とも色々あったけど、こうして、ジガルガも無事だったし、治癒魔法で、あの地獄の苦しみからも救ってくれたしな、まあ、全部水に流すか……あっ、でも、イングリッドを、邪鬼眼の術で……」
操ったことは、あいつに謝ってもらうぞ。
そう続けようとする俺に、アーニャは小さな冊子のようなものを手渡してきた。
疲労の果て、ぼんやりする頭でそれを受け取り、尋ねる。
「これは?」
「その、イングリッドちゃんへ宛てて書いた手紙だよ。邪鬼眼の術を使ったことに対する謝罪文と、慰謝料代わりとして、色々有益なことを書いておいたんだ。ナナリーちゃん、前に、ちゃんと謝らないと、友達にならないって言ってたでしょ?」
「へえ……ちゃんと覚えてたんだ。分かった、これはイングリッドに渡しておくよ」
手紙を懐にしまうと、アーニャは俺の手を握り、それまでより、さらにニコニコと顔を綻ばせ、言う。
「ねえ、これで僕たち、本当の意味で、友達になれたよね?」
「かもな……」
「やったー!」
「お前が、ご主人様の好奇心を満たすために、俺をストーカーして色々報告するのをやめてくれたら、もっといい友達になれると思うけどね……」
ダメもとでそう言う俺に対し、答えたのはクソ店主――いや、グリアルドだった。
「それについてだが、しばらく、アーニャをナナリーくんに張り付かせるのはやめようと思うんだ。」
「えっ、マジかよ? 言ってみるもんだな」
グリアルドは、小さく含み笑いしながら、言葉を続ける。
「正直、今回のジガルガをめぐる一件で、私の心は大きく満たされた。単純に楽しかったというだけでなく、世の中には、まだまだ面白いことがあるんじゃないかと、夢が膨らんだよ」
「はぁ、なるほど……そりゃ大変よろしゅうございましたね……」
「どれだけぶりだろう、こんなふうに、心が生き生きと躍り、活力に満ちているのは。こういうときは、新しいことを始める、絶好の機会なのだ。だからね、人間観察は少しお休みして、新しい趣味を始めようと思うんだ」
「少しと言わず、ずっと休んでてほしいが、まあ、新しいことを始めるのはいいことだと思うぜ」
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